【ことわざ】
雉子の頓使い
【読み方】
きぎしのひたづかい
【意味】
使いに行ったまま戻ってこない人のたとえ。また、副使をつけずに一人だけで使者を出すことを忌む言葉ともいう。


【英語】
・a messenger who never returns.(戻ってこない使者)
【類義語】
・鉄砲玉の使い(てっぽうだまのつかい)
「雉子の頓使い」の語源・由来
「雉子の頓使い」は、『古事記(こじき)』上巻に出てくる日本神話にもとづくことわざです。『古事記』は、和銅五年、すなわち712年に成立し、稗田阿礼が伝えた古代の歴史を太安万侶(おおのやすまろ)が筆録・編集した書物です。
このことわざの背景にあるのは、葦原の中つ国を平定するために、高天原(たかまがはら)から天若日子(あめのわかひこ)が遣わされた話です。天若日子は地上に降ったまま、八年たっても復命しませんでした。
そこで、高天原の神々は、天若日子がなぜ長くとどまっているのかを問わせることにしました。このとき使者として選ばれたのが、雉である鳴女(なきめ)です。
鳴女は天から降り、天若日子の門のそばにある木にとまって、天つ神の命令をそのまま伝えました。つまり、鳴女はただ鳴いていたのではなく、神々の言葉を届ける使者として働いていたのです。
ところが、天佐具売(あまのさぐめ)は、その鳥の鳴く声がたいそう悪いので射殺すべきだと、天若日子に告げました。天つ神の命令を伝える鳴女の言葉が、悪い鳥の声として受け取られてしまうところに、この場面の大切な転換があります。
天若日子は、天つ神から授けられていた弓矢を用いて、雉を射殺してしまいます。その矢は雉の胸を貫き、そのまま逆に天へ射上り、高天原の神々のもとへ届きました。
高木神は、その矢が天若日子に授けた矢であることを知ります。そして、天若日子に邪心があるなら災いとなれ、という趣旨の言葉を述べ、その矢を地上へ突き返しました。
突き返された矢は、朝の床に寝ていた天若日子の胸に当たり、天若日子は死んでしまいます。この出来事は「還矢」のもととして語られ、同じ流れの中で、雉が戻らなかったことが示されます。
『古事記』の本文には、「亦其雉不還、故於今諺曰『雉之頓使』是也」とあります。これは、雉がまた帰らなかったので、今のことわざに「雉之頓使」というのはこれである、という意味です。
ここから、「雉子の頓使い」は、行ったきり戻ってこない使者を表す言葉になりました。古い形では「雉之頓使」と記され、現代では「雉の頓使い」「雉子の頓使い」といった表記で用いられます。
また、一説には、副使や従者をつけず、たった一人で使者を出すことを忌む言葉ともいいます。鳴女が一羽で遣わされ、帰ってこなかった話と結びつき、単独の使いを不吉に思う考えも生まれたといえます。
現在の使い方では、神話のような重大な場面だけでなく、頼まれて出かけた人が戻らないときにも用いられます。もとの話を知ると、このことわざが、ただ遅いというだけでなく、「帰ってこない使者」という点を強く表す言葉だと分かります。
「雉子の頓使い」の使い方




「雉子の頓使い」の例文
- 買い物を頼まれた弟は、友だちと遊び始めてしまい、雉子の頓使いになった。
- 資料を取りに行った係が戻らず、会議室では雉子の頓使いだと困っていた。
- 職員室へ伝言に行った友人がなかなか帰らず、雉子の頓使いのようになっている。
- 祖母に薬局まで行くよう頼まれた兄は、途中で寄り道をして雉子の頓使いになった。
- 確認に行った担当者から返事がなく、受付の人たちは雉子の頓使いでは困ると話した。
- 放送室へマイクを借りに行った生徒が戻らず、発表の準備は雉子の頓使いのせいで遅れた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・太安万侶撰『古事記』712年。























