【ことわざ】
親の欲目
【読み方】
おやのよくめ
【意味】
親はわが子がかわいいため、実際以上に優れていると評価しがちであること。


【英語】
・The crow thinks her own bird fairest(カラスは自分の子がいちばん美しいと思う)
【類義語】
・親に目なし(おやにめなし)
・親の目はひいき目(おやのめはひいきめ)
「親の欲目」の語源・由来
「親の欲目」の「欲目」は、好意や期待があるために、実際以上によく見たり、自分に都合よく判断したりする見方を指します。ここでの「欲」は、金品を欲しがることだけを表すのではなく、こうあってほしいという願いや期待が、判断に入り込むことを表しています。
「欲目」という言葉そのものは、『運歩色葉集(うんぽいろはしゅう)』(1547〜1548年ごろ成立、室町時代、著者未詳)に、すでに収められています。『運歩色葉集』は、約一万七千の言葉をいろは順に並べた国語辞書であり、「親の欲目」というまとまった言い方が文献に現れるより前から、「欲目」が一つの言葉として使われていたことが分かります。
「親の欲目」の古い用例は、浄瑠璃(じょうるり)『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』(1748年・江戸時代中期、二世竹田出雲・三好松洛・並木千柳合作)の九段目に出てきます。この作品は、全十一段からなり、1748年に大坂の竹本座で初演されたのち、歌舞伎にも移され、広く親しまれました。
九段目「山科閑居の段(やましなかんきょのだん)」では、戸無瀬(となせ)が娘の小浪(こなみ)を連れ、小浪の許婚である大星力弥との祝言を願って、大星由良助の家を訪れます。しかし、由良助の妻であるお石は、両家の武士としての考え方が釣り合わないことを理由に、縁談を退けます。
悲しむ小浪の顔を見た戸無瀬は、「親の欲目か知らねども、ほんにそなたの器量なら十人並にもまさつた娘」と語ります。親である自分のひいき目かもしれないが、娘は人並み以上の器量を備えている、という意味です。
この場面で、戸無瀬はただ娘を自慢しているのではありません。娘をかわいく思う自分の評価には、親としての偏りが含まれているかもしれないと認めたうえで、それでも小浪には、よい縁組を得るだけの魅力があると訴えています。「親の欲目」は、親の愛情の深さと、その愛情が冷静な判断を曇らせることの両方を、短い言葉で表しているのです。
やがて、この表現は、容姿だけでなく、才能・成績・性格・将来性など、親がわが子を評価するさまざまな場面に広がりました。昭和19年の壺井栄『花のいのち』にも、娘を普通以上の器量だと思う気持ちを、「親の欲目かもしれないが」と控えめに述べる用例があります。
現在では、第三者が親の過大評価をたしなめる場合だけでなく、親自身が「親の欲目かもしれない」と前置きし、自分の評価が公平ではない可能性を認める場合にも用います。親の愛情そのものを否定する言葉ではなく、愛情が強いほど、わが子を客観的に見ることは難しくなるという、人間の心の働きを表すことわざです。
「親の欲目」の使い方




「親の欲目」の例文
- 母は娘の絵が最優秀賞にふさわしいと言うが、少し親の欲目があるようだ。
- 父は息子を将来の名選手だと信じているものの、周囲からは親の欲目ではないかと思われている。
- 親の欲目かもしれないが、わが子には人を引き付ける話し方の才能がある。
- 幼い息子の演奏を天才的だと褒める母の言葉には、親の欲目も含まれていた。
- 親の欲目を差し引いても、娘が長い間努力を重ねてきたことは確かだ。
- 審査員を務める以上、親の欲目に惑わされず、ほかの参加者と同じ基準で評価しなければならない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Thomas Preston『A Dictionary of English Proverbs and Proverbial Phrases』Whittaker & Co.
・『運歩色葉集』1547〜1548年ごろ成立。
・二世竹田出雲・三好松洛・並木千柳『仮名手本忠臣蔵』1748年。
・壺井栄『花のいのち』1944年。























