【故事成語】
貴珠は賤蚌より出ず
【読み方】
きしゅはせんぼうよりいず
【意味】
優秀な人物やすぐれた才能が、貧しく低い境遇から生まれ出ることのたとえ。


【英語】
・great talent from humble origins.(低い身分や貧しい家から生まれた大きな才能)
【類義語】
・鳶が鷹を生む(とびがたかをうむ)
・掃き溜めに鶴(はきだめにつる)
【対義語】
・瓜の蔓に茄子はならぬ(うりのつるになすびはならぬ)
・蛙の子は蛙(かえるのこはかえる)
「貴珠は賤蚌より出ず」の故事
「貴珠は賤蚌より出ず」は、中国の東晋の葛洪が著した『抱朴子(ほうぼくし)』外篇「博喩」に出てくる「貴珠出乎賤蚌」という一節にもとづく故事成語です。『抱朴子』は317年ごろに成立し、内篇は神仙思想や道家の説を、外篇は儒家の立場から政治・社会などを述べた書物です。
もとの文は、「銳鋒產乎鈍石,明火熾乎暗木,貴珠出乎賤蚌,美玉出乎醜璞」と続きます。鋭い刃は鈍い石から生まれ、明るい火は暗い木から燃え、貴い真珠は賤しい貝から出て、美しい玉は粗末な原石から出る、という意味です。
ここでいう「貴珠」は、価値の高い珠、すなわち真珠を指します。「珠」は貝の中にできる丸い玉を表し、真珠は貝の体内にできる、銀白色の光沢をもつ宝石として珍重されるものです。
「賤蚌」の「賤」は、身分が低い、いやしい、値段が安いなどの意味をもつ字です。「蚌」は、どぶがい、からすがい、はまぐりなどの二枚貝を表す字です。
この一節では、見た目や出どころが立派でなくても、そこから価値あるものが生まれることを、いくつものたとえを重ねて述べています。鈍い石と鋭い刃、暗い木と明るい火、賤しい貝と貴い真珠、粗い原石と美しい玉が、同じ考えを支える組み合わせになっています。
『抱朴子』の本文は、このあと「是以不可以父母限重華,不可以祖禰量衛霍也」と続きます。これは、父母によって重華を限ってはならず、祖先によって衛霍を量ってはならない、という意味です。
「重華(ちょうか)」は、伝説上の聖天子である舜(しゅん)の名です。舜は、中国古代の五帝の一人で、尭帝から位を譲られ、後に禹へ禅譲した人物として伝えられています。
「衛霍」は、前漢の武帝の時代に活躍した衛青(えいせい)と霍去病(かくきょへい)を指します。衛青は匈奴討伐に功を立てた武将で、霍去病もまた衛青とともに匈奴討伐にあたり、大きな功績を挙げた名将です。
つまり『抱朴子』の文は、人を父母や祖先の身分だけで判断してはならない、と説いています。貴い真珠が賤しい蚌から出るように、すぐれた人物も、必ずしも高い家柄や恵まれた境遇からだけ生まれるわけではない、という考えです。
日本語の「貴珠は賤蚌より出ず」は、この漢文の一節を訓読調にした形です。「出」は「でる」「あらわれでる」「生まれる」などの意味をもつ字で、この言葉では、価値あるものがある場所から生まれ出ることを表しています。
この故事成語は、貧しい家に生まれた人をただ持ち上げる言葉ではありません。生まれや身分だけを見て、その人の力や価値を小さく決めてしまうことへの戒めとして受け取ることが大切です。
現在では、恵まれない環境や目立たない場所から、すぐれた人物や才能が現れることを表すときに使われます。真珠の美しさは貝の見た目だけでは分からないように、人の力も出身や境遇だけでは測れない、という意味につながっています。
「貴珠は賤蚌より出ず」の使い方




「貴珠は賤蚌より出ず」の例文
- 貧しい村から世界的な研究者が生まれ、貴珠は賤蚌より出ずという言葉が思い浮かんだ。
- 小さな学校の生徒が全国大会で優勝し、貴珠は賤蚌より出ずを示す出来事となった。
- 家柄だけで人を判断する考え方は、貴珠は賤蚌より出ずの教えに反する。
- 目立たない部署から優れた企画が出たことは、まさに貴珠は賤蚌より出ずである。
- 苦しい環境で育った彼が大きな功績を残した姿に、貴珠は賤蚌より出ずの重みを感じた。
- 貴珠は賤蚌より出ずというように、才能は思いがけない場所から現れることがある。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2000〜2002年。
・日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・葛洪『抱朴子』317年ごろ。
・Merriam-Webster, Merriam-Webster.com Dictionary, Merriam-Webster Incorporated.























