【ことわざ】
気の利いた化け物は引っ込む時分
【読み方】
きのきいたばけものはひっこむじぶん
【意味】
長居している客や、長く地位に居座って引退しない人に対して、そろそろ退くべきだと皮肉をこめていう言葉。たとえ化け物でも、気の利くものなら引き時を心得ている、という意味からいう。


【英語】
・overstay one’s welcome.(長く居すぎて歓迎されなくなる)
【類義語】
・長居は恐れ(ながいはおそれ)
・立つ鳥跡を濁さず(たつとりあとをにごさず)
・引き際が肝心(ひきぎわがかんじん)
【対義語】
・居座る(いすわる)
「気の利いた化け物は引っ込む時分」の語源・由来
「気の利いた化け物は引っ込む時分」は、化け物でさえ、気が利いていれば退く時を知っているはずだ、というおかしみを含んだことわざです。「気が利く」は、細かなところまでよく気がつき、心が行き届くことを表します。
「化け物」は、もとは姿を変えて人に怪異の思いを起こさせるものを指します。狐・狸・猫などが化けると考えられたものや、おばけ・妖怪の類を表す言葉として使われてきました。
化け物は、ふつう人に歓迎される存在ではありません。その化け物でさえ、気が利くなら自分の引き際を心得て引っ込む、というところに、このことわざの皮肉があります。
「時分」は、おおよその時期・時刻だけでなく、物事にふさわしい時期、ちょうどよいころあいも意味します。このことわざの「時分」は、ただの時刻ではなく、退くべきころあいを指しています。
「引っ込む」は、表立つ場から退いて、人目に立たない所へ移ることを表します。そのため、このことわざでは、客が帰ること、または地位や立場から身を引くことへ意味が広がっています。
古い形として、「化物も引っ込む時分」という言い方があります。『俚言集覧』(1829年・江戸時代後期、太田全斎著)には「化物もひきこむ時分」という形があり、待つべき時機がすでに過ぎたことをいう表現として記されています。
この古い形では、「気の利いた」という部分はまだ前面に出ていません。まず「化物も引っ込む時分」という言い方があり、化け物が出ているはずの時でさえ終わった、つまりもう遅すぎるという意味を担っていました。
そこに「気の利いた」が加わると、意味はさらに人間関係の場面へ近づきます。歓迎されにくい化け物でさえその場の空気を察して退くのだから、人間ならなおさら退き時をわきまえるべきだ、という言い方になります。
現在の形では、長く座にとどまっている客に対して、「そろそろ帰ったらどうか」と皮肉る場合に使います。また、支持を失っているのに地位にとどまり続ける人に対して、引退を促す意味でも用いられます。
さらに、会合などにひどく遅れて来た人へ向けて、時機を逃していることを皮肉る場合にも使われます。このように、ただ「帰りなさい」と言うのではなく、化け物を持ち出して遠回しに退き時を示すところに、このことわざのユーモアがあります。
現在では、日常会話で強く使うと失礼になりやすい表現です。相手を直接責めるというより、長居や居座りを笑いを交えてたしなめる、皮肉の強いことわざとして理解するのがよいでしょう。
「気の利いた化け物は引っ込む時分」の使い方




「気の利いた化け物は引っ込む時分」の例文
- 宴会が終わっても帰らない客に、気の利いた化け物は引っ込む時分だと店主は内心で思った。
- 長く役職にとどまり続ける代表に、周囲は気の利いた化け物は引っ込む時分だと感じていた。
- 会議が終わったあとも演説を続ける先輩には、気の利いた化け物は引っ込む時分という言葉が当てはまる。
- 人気を失っても舞台の中心に立ち続ける姿は、気の利いた化け物は引っ込む時分と評された。
- 閉店時間を過ぎても話し続ける客を見て、店員は気の利いた化け物は引っ込む時分だと苦笑した。
- 気の利いた化け物は引っ込む時分というように、どんな立場でも退き時を知ることは大切だ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・現代言語研究会著『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・太田全斎『俚言集覧』1829年。
・村田了阿編『増補俚言集覧 下』皇典講究所印刷部、1900年。
・Cambridge University Press, Cambridge English Dictionary.























