【ことわざ】
泳ぎ上手は川で死ぬ
【読み方】
およぎじょうずはかわでしぬ
【意味】
自分の力を過信し、慣れていることや得意なことで失敗したり、身を滅ぼしたりすることのたとえ。


【英語】
・Good swimmers are often drowned(泳ぎの上手な人ほど、かえって溺れることがある)
【類義語】
・川立ちは川で果てる(かわだちはかわではてる)
・才子才に倒れる(さいしさいにたおれる)
・善く游ぐ者は溺れ、善く騎る者は堕つ(よくおよぐものはおぼれ、よくのるものはおつ)
【対義語】
・勝って兜の緒を締めよ(かってかぶとのおをしめよ)
「泳ぎ上手は川で死ぬ」の語源・由来
「泳ぎ上手」は、泳ぐことに慣れ、優れた技術をもつ人を指します。そのような人は水を恐れず、難しい流れにも入っていくため、油断や自信のもちすぎによって、かえって川で命を落とすことがあるという考えから生まれたことわざです。
これと同じ教えは、古代中国の思想書『淮南子(えなんじ)』(前漢、紀元前2世紀、劉安編)の「原道訓(げんどうくん)」に、早くから出てきます。『淮南子』は、淮南王の劉安が多くの学者を集めて編んだ、全二十一編の書物です。
「原道訓」には、「夫善遊者溺、善騎者墮、各以其所好、反自為禍」とあります。泳ぎのうまい者は水に溺れ、馬に乗るのがうまい者は馬から落ち、それぞれ、自分が得意とするものによって、かえって災いを受けるという意味です。
この一節では、技術そのものが悪いのではなく、好きなことや得意なことに夢中になりすぎると、それが災いへと変わる場合があると説いています。「泳ぎ上手は川で死ぬ」が表す、得意なことほど油断しやすいという戒めと重なります。
日本では、『曾我物語(そがものがたり)』(南北朝時代ごろ成立)に、「水をよくおよぐ者はむもれ、馬によくのる物はをち」とあります。泳ぎや乗馬に優れた者ほど、その技に頼って失敗するという意味で、中国の古い言い方が日本語の文章に取り入れられていたことが分かります。
また、日本では、川辺で育ち、泳ぎに慣れた人を「川立ち」と呼びました。そこから、「川立ちは川で果てる」ということわざも生まれ、得意な技能が、かえって身を滅ぼす原因になることを表しました。
現在の形に近い古い用例は、徳富蘆花の自伝的小説『思出の記(おもいでのき)』(明治33〜34年、徳富蘆花著)に出てきます。作中では、「泳ぎの上手は川で死ぬ、で氣象者は氣象で却て失策ります」と、気性の強い人が、自分の性格によって失敗することと並べて使われています。
この用例では、すでに、実際の水泳事故だけでなく、人が自分の長所や得意なことを過信して失敗するという広い意味で使われています。その後、「泳ぎの上手」が簡潔な「泳ぎ上手」となり、現在の「泳ぎ上手は川で死ぬ」という形で定着しました。
このことわざは、特定の一人の失敗談から生まれたものではありません。古代中国の教え、中世日本の用例、川と深く関わって暮らした人々の経験が重なり、得意なことに取り組むときほど慎重さを失ってはならないという戒めとなった言葉です。
「泳ぎ上手は川で死ぬ」の使い方




「泳ぎ上手は川で死ぬ」の例文
- ベテラン運転手が慣れた道で事故を起こし、泳ぎ上手は川で死ぬという言葉を思い出した。
- 得意な数学で計算ミスを重ねるとは、まさに泳ぎ上手は川で死ぬだ。
- 長年の経験を頼りに安全確認を省いた職人に、泳ぎ上手は川で死ぬという戒めが当てはまる。
- 強豪チームは相手を軽く見て敗れ、泳ぎ上手は川で死ぬという結果になった。
- 投資に詳しいからと無理な取引を続ければ、泳ぎ上手は川で死ぬことにもなりかねない。
- 料理が得意な父は味見をせずに調味料を入れすぎ、泳ぎ上手は川で死ぬと苦笑した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Emanuel Strauss『Dictionary of European Proverbs, Volume 2』Routledge、1994年。
・劉安編『淮南子』前漢、紀元前2世紀。
・『曾我物語』南北朝時代ごろ成立。
・徳富蘆花『思出の記』民友社、1901年。























