【慣用句】
釘を刺す
【読み方】
くぎをさす
【意味】
約束違反や言い逃れができないように、あらかじめ念を押す。また、相手が取りそうな行動を見越して、前もって強く注意する。


【英語】
・make it clear to someone that …(…するように相手にはっきり言い渡す)
・tell someone in no uncertain terms to …(…するように相手へ強い調子で念を押す)
【類義語】
・念を押す(ねんをおす)
・楔を刺す(くさびをさす)
・駄目を押す(だめをおす)
「釘を刺す」の語源・由来
「釘を刺す」のもとには、釘を木材などに打ち込み、物と物とをしっかり接合して、動かないように固定する作業があります。釘で物を固定することを、言葉や約束を動かしにくいものにすることに重ねた表現です。
日本の木造建築では、木材の切り込みや組み合わせによって部材をつなぎ、必要な箇所を釘でいっそう確実に固定することがありました。そのように、後で緩んだり外れたりしないように釘を加える動作から、問題が起こらないよう前もって念を押す意味が生まれたという説があります。
比喩としての古い用例は、歌舞伎『関東小六今様姿(かんとうころくいまようすがた)』(1698年・江戸時代前期)に出てきます。この作品は、元禄11年に上演された歌舞伎で、題名の読みも「かんとうころく いまようすがた」と伝わっています。
作中には、「小六はおれに釘をさいたな。姫にも釘をささう」とあります。「さいた」は現在の「刺した」、「ささう」は「刺そう」に当たる古い表記です。ここでの釘は実物ではなく、相手に逃げ道を与えないよう、言葉で厳しく問いただしたり、念を押したりすることを表しています。
この用例から、17世紀末にはすでに「釘を刺す」が、約束を固めるだけでなく、相手の言動を見越して強く注意する意味でも使われていたことが分かります。現在の「秘密を漏らさないよう釘を刺す」「決まりを守るよう釘を刺す」といった用法へ、そのままつながる意味です。
釘を用いた似た比喩は、江戸時代のほかの表現にも広がりました。浄瑠璃『源義経将棊経』(1711年ごろ)には、打った釘の先を裏側で曲げて抜けなくする「裏釘を返す」という言い方が、物事をいっそう確かなものにする意味で使われています。
さらに、近松半二・三好松洛・竹本三郎兵衛合作の浄瑠璃『本朝二十四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』(1766年・江戸時代中期)には、「先にかけたる言葉の裏釘、折返されて」とあります。いったん交わした言葉を釘にたとえ、その先を折り曲げて抜けないようにすることで、約束をいっそう固くする様子を表しています。
「釘を刺す」と同じ意味をもつ「釘を打つ」も、使われるようになりました。山東京伝の読本『双蝶記(そうちょうき)』(1813年・江戸時代後期)には、「釘打つ詞」という言い方があり、相手を言葉で追い詰め、あいまいな返答を許さない場面で用いられています。
江戸時代後期には、念を入れて固く約束することを「釘締(くぎじめ)」とも呼びました。人情本『沉魚伝』(1832~1842年)では、以前に言い聞かせた言葉を「後日の釘〆」と表しており、後になって約束を違えないようにする言葉という意味で使われています。
このように、釘を打ち込み、裏側で折り返し、さらに締めるという具体的な動作が、言葉や約束を動かないものにする比喩へと広がりました。その中で「釘を刺す」が広く定着し、現在では、相手が約束を破ったり問題を起こしたりしないよう、あらかじめはっきり注意することを表しています。
「釘を刺す」の使い方




「釘を刺す」の例文
- 班長は、発表資料を前日までに仕上げるよう全員に釘を刺した。
- 母は、留守中にゲームばかりしないよう兄に釘を刺した。
- 秘密を打ち明ける前に、ほかの人には話さないでと釘を刺した。
- 祭りの係は、火の近くで走らないよう子どもたちに釘を刺した。
- 契約を結ぶ前に、担当者は納期を必ず守るよう取引先に釘を刺した。
- 委員長は、決定事項を独断で変更しないよう各担当者に釘を刺した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000~2002年。
・小学館大辞泉編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・近藤いね子・高野フミ編集主幹『小学館プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・『関東小六今様姿』1698年。
・近松半二・三好松洛・竹本三郎兵衛『本朝二十四孝』1766年。
・山東京伝『双蝶記』1813年。























