【慣用句】
気脈を通じる
【読み方】
きみゃくをつうじる
【意味】
共通の目的や利益のために、ひそかに連絡を取り合い、互いの意思を通じ合わせること。


【英語】
・have a secret understanding with …(…とひそかに意思を通じ合う)
【類義語】
・策応(さくおう)
・腹を合わす(はらをあわす)
「気脈を通じる」の語源・由来
「気脈」は、もともと血液の通う筋道を表す言葉です。「気」は人の体を巡る生命の働き、「脈」は血液などが流れる道筋を指し、二つを合わせて「気血の脈絡」という具体的な意味を表しました。そこから、人と人との間を流れる、目に見えない気持ちや意思のつながりを指すようになりました。
日本の古い用例として、『史記抄(しきしょう)』(1477年・室町時代中期、桃源瑞仙著)に「五臓六腑の気脉の行処を」とあります。『史記抄』は、中国の歴史書『史記』を当時の口語で講じた十九巻の注釈書で、この用例の「気脉」は、五臓六腑の間を血や気が巡る、身体上の道筋を表しています。
この段階では、「気脈」は人どうしの関係ではなく、体の中を巡るものを指していました。しかし、血が体の各部をつないで流れるように、心や考えが人から人へ通う道筋も「気脈」と呼ばれるようになり、意味が比喩的に広がりました。
人と人、または心と心とのつながりを表す用例は、『文明開化(ぶんめいかいか)』(1873〜1874年・明治時代初期、加藤祐一著)に出てきます。初編には、「神と我が魂とは、気脈の通じて居る様なものじゃ」とあり、神と自分の魂との間に、目には見えない心の道が通っているという意味で使われています。
現在の慣用句に直接つながる古い用例は、福沢諭吉の『文明論之概略(ぶんめいろんのがいりゃく)』(1875年・明治時代前期)にあります。同書の巻之五には、「双方の間に気脈を通ぜずして」とあります。「通ぜず」は「通じないで」という意味で、現代の「気脈を通じる」と同じ組み立てをもつ表現です。
この一節で福沢諭吉は、国の財を生み出す側と、それを使う側とが別々になり、互いの考えや事情を十分に伝え合っていない状態を論じています。ここでは、悪事のために結び付くという意味ではなく、二つの集団の間に連絡や意思のつながりがないことを、「気脈を通ぜず」と表しています。
夏目漱石の『思い出す事など(おもいだすことなど)』(1910〜1911年・明治時代後期)にも、「親しい気脈を通じて」という表現が出てきます。漱石は、自分が文学について抱いていた考えと、読んでいた哲学上の主張とが、深いところでつながっていることを、この言葉で表しました。
このように、近代の用例では、「気脈を通じる」は、心や思想が深くつながるという広い意味でも使われていました。一方、現在の慣用句では、共通の目的や利益をもつ者どうしが、外からは分からないように連絡を取り合うという意味が強くなっています。
ただし、必ずしも悪事や裏切りだけを表すとは限りません。表向きには離れている人や組織が、同じ目的のためにひそかに協力する場合にも用いますが、秘密の結び付きや裏での申し合わせを連想させやすいため、やや警戒や疑いを含む文脈で使われることの多い慣用句です。
「気脈を通じる」の使い方




「気脈を通じる」の例文
- 対立しているように見えた二つの派閥は、裏では気脈を通じる関係にあった。
- 敵軍と気脈を通じる者がいるという疑いから、城内の警戒が厳しくなった。
- 複数の業者が気脈を通じることで、入札の価格を不正に調整していた。
- 異なる部署の若手社員たちは、会社の改革を進めるために気脈を通じるようになった。
- 両国の代表者は、正式な交渉に先立って気脈を通じるため、秘密裏に会談を重ねた。
- 歴史家は、離れた地域の反乱勢力が気脈を通じる証拠を古い書状の中から見つけた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・桃源瑞仙『史記抄』1477年。
・加藤祐一『文明開化』積玉圃、1873〜1874年。
・福沢諭吉『文明論之概略』1875年。
・夏目漱石『思い出す事など』1910〜1911年。























