【慣用句】
鬼籍に入る
【読み方】
きせきにいる
【意味】
死んで、死者の名簿に名を記されること。転じて、死亡すること。


【英語】
・pass away(亡くなる)
【類義語】
・亡くなる(なくなる)
・他界する(たかいする)
・永眠する(えいみんする)
・逝去する(せいきょする)
【対義語】
・生を享ける(せいをうける)
・産声を上げる(うぶごえをあげる)
「鬼籍に入る」の語源・由来
「鬼籍に入る」は、「鬼籍」という死者の名簿に名前が記される、という考えから生まれた言い方です。「鬼籍」は、死んだ人の名や死亡年月日を書きしるす帳面を表し、過去帳や点鬼簿とも近い意味で使われます。
ここでいう「鬼」は、昔話に出てくる角のある怪物だけを指すのではありません。漢語としての「鬼」には、死者の霊魂、または死者そのものを表す意味があり、「鬼籍」「鬼録」などの語にも、その意味が生きています。
「籍」は、名前や身分などを書きつける帳簿を表す字です。そのため「鬼籍」は、死者の名を記す帳簿という意味をもち、「鬼籍に入る」は、そこに名を加えられることから、亡くなることを遠回しに表します。
日本では、寺に置かれる過去帳も、この言葉の理解と深く結びついています。過去帳は、寺で檀徒の死者の戒名、法名、実名、死亡年月日などを記録して保管する帳簿で、「鬼籍」「霊簿」「鬼簿」とも呼ばれます。
近い言葉に「鬼録」があります。「鬼録」は、閻魔(えんま)が死者の姓名を書くという帳面の意味をもち、過去帳や鬼籍と同じように用いられます。
「鬼録」は、平安時代の歴史書『日本三代実録』(901年成立、藤原時平ほか編)にも用例が出てきます。そこでは、死者の名を記す帳簿という考えが、漢文の文章の中で使われています。
また、「点鬼簿(てんきぼ)」も、死者の姓名を書きしるした帳面を表す言葉です。江戸時代前期の漢詩文集『羅山先生文集』(1662年刊、林羅山著)には「点鬼簿」の用例があり、死者を帳簿に記すという漢語的な言い方が、学問や文章の世界で使われていたことが分かります。
「鬼籍」そのものは、明治時代の辞書にも、死者の名や死亡年月日などを記す帳簿という意味で出てきます。近代以降、死を直接言わず、少し改まった形で表す言葉として、「鬼籍」が日本語の中に定着していきました。
「鬼籍に入る」というまとまった形の古い用例としては、矢野龍渓の政治小説『経国美談』(1883〜1884年、明治時代)が挙げられます。この作品には「空しく鬼籍に入りたることを」という形が出てきて、志を果たせないまま亡くなったことを述べる文脈で使われています。
『経国美談』は、前編が1883年、後編が1884年に刊行された、明治時代の代表的な政治小説の一つです。古代ギリシアの史実に題材を取りながら、自由民権の思想を背景にした作品として読まれました。
このように、「鬼籍に入る」は、死者の名を帳簿に記すという具体的な考えから、亡くなることを表す慣用的な言い方へ広がりました。現在では、ただ「死ぬ」と言うよりも遠回しで、故人への敬意や慎みをこめて用いる表現になっています。
なお、「鬼籍に入る」の「入る」は、「はいる」ではなく「いる」と読むのが一般的です。文章では「鬼籍に入った」「鬼籍に入られた」のような形でも使われますが、基本の読みは「きせきにいる」です。
「鬼籍に入る」の使い方




「鬼籍に入る」の例文
- 恩師が鬼籍に入ったという知らせに、卒業生たちは静かに手を合わせた。
- 祖父が鬼籍に入るまで大切にしていた時計を、父は今でも大事にしている。
- その作家が鬼籍に入ると、残された作品への関心が改めて高まった。
- 社史には、創業者が鬼籍に入るまで、会社の発展を見守ったと記されている。
- 名優が鬼籍に入ったという報道に、多くのファンが追悼の言葉を寄せた。
- 寺の過去帳には、村人が鬼籍に入るたびに名前と命日が記された。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・白川静著『字通』平凡社、1996年。
・集英社辞典編集部編『ルーツでなるほど慣用句辞典』集英社、1991年。
・藤原時平ほか編『日本三代実録』901年。
・林羅山『羅山先生文集』1662年。
・矢野龍渓『経国美談』1883〜1884年。
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary.』























