【ことわざ】
狐の嫁入り
【読み方】
きつねのよめいり
【意味】
日が照っているのに、急に小雨が降ること。また、夜の山野に狐火が連なり、嫁入り行列の提灯のように見えるもの。


【英語】
・sun shower.(日が照っているときに降る雨)
【類義語】
・天気雨(てんきあめ)
・日照り雨(ひでりあめ)
・狐日和(きつねびより)
「狐の嫁入り」の語源・由来
「狐の嫁入り」には、暗い山野に連なる怪しい火を指す意味と、日が照っているのに小雨が降る天気を指す意味があります。どちらも、普段の道理では説明しにくい不思議な光景を、狐が人を化かして起こしたものと考えたことから生まれた言い方です。
もとの具体的な情景の一つは、夜の野山に現れる「狐火(きつねび)」です。幾つもの火が横に連なったり、点いたり消えたりしながら移動したりする様子を、人々は提灯を持った嫁入り行列に見立て、「狐の嫁入り」または「狐の行列」と呼びました。
狐は古くから、山野にすみ、人の姿に化けたり、人を迷わせたり、怪しい火をともしたりする動物として語られてきました。一方では稲荷神の使いとなる霊獣とも考えられ、その神秘的な性格と、人を化かすという俗信とが重なって、正体の分からない灯火を狐の仕業とみなす伝承が広まりました。
もう一つの意味である天気雨も、晴天と雨が同時に現れる不思議さから、狐に化かされているような現象と受け取られました。実際の天気雨は、雨を降らせた雲が移動したり消えたりしたあとに雨粒だけが落ちてくる場合や、離れた雨雲から風で運ばれた雨が、日の差している所に降る場合などに起こります。
天気雨を表す古い用例は、人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)の『壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)』(1732年・江戸時代中期、文耕堂・長谷川千四合作)に出てきます。この作品は同年九月に大坂の竹本座で初演された五段の時代物です。
その第四段には、「狐の嫁入(ヨメリ)のそばえ雨」とあります。「そばえ雨」は、日が照っているのに降る小雨を指す言葉で、この用例から、十八世紀前半にはすでに「狐の嫁入り」が天気雨の呼び名として使われていたことが分かります。
江戸時代後期になると、この言い方は絵入りの読み物にも取り上げられました。『日照雨狐娵入(ひでりあめきつねのよめいり)』(1805年・江戸時代後期、歌川豊広画)は、狐の花嫁と介添えを描いた黄表紙で、天気雨の中を狐の一行が花婿の家へ向かう場面が収められています。題名の「娵入」は「嫁入り」の異表記であり、天気雨と狐の婚礼とを一つの物語として結び付けています。
葛飾北斎の『狐の嫁入図(きつねのよめいりず)』(1844年・江戸時代後期)にも、天気雨と狐の行列が同じ画面に描かれています。手前では突然の雨に驚いた人々が洗い張りの板を取り込み、遠くの土手では狐たちの厳かな行列が進んでおり、現実の天候と空想上の婚礼とが重ね合わされています。
また、鈴木牧之の『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』(初編1837年・江戸時代後期)には、雪原にいた狐が口から火を出すように見えたという体験が記されています。狐火を狐自身が生み出すという考えが、江戸時代後期にも身近な俗信として語られていたことを示しています。
このように、「狐の嫁入り」は、狐火を婚礼の提灯行列に見立てる想像と、晴天の中に雨が降る不可思議さとが、狐の霊力や化かす力をめぐる伝承によって結び付いた表現です。現在は天気雨を指して使うことが多いものの、もともとの怪火の列を表す意味も受け継がれています。
「狐の嫁入り」の使い方




「狐の嫁入り」の例文
- 青空から急に雨粒が落ちてきて、辺りは狐の嫁入りとなった。
- 祖母は洗濯物を取り込みながら、狐の嫁入りだからすぐにやむだろうと言った。
- 遠くの山道に怪しい灯が連なるのを、村人たちは狐の嫁入りと呼んだ。
- 狐の嫁入りの最中にも太陽は雲間から明るく照っていた。
- その昔話には、狐の嫁入りを見てはいけないと戒められた子どもが登場する。
- 絵師は天気雨の農村と狐の婚礼行列を重ね、幻想的な狐の嫁入りを描いた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・文耕堂・長谷川千四『壇浦兜軍記』1732年。
・歌川豊広画『日照雨狐娵入』西与、1805年。
・鈴木牧之『北越雪譜 初編』1837年。
・葛飾北斎『狐の嫁入図』1844年。























