【慣用句】
金に糸目を付けない
【読み方】
かねにいとめをつけない
【意味】
ある目的のために、費用の限度を設けず、惜しまず金を使うこと。


【英語】
・spare no expense.(費用を惜しまない)
【類義語】
・金に飽かす(かねにあかす)
【対義語】
・財布の紐を締める(さいふのひもをしめる)
「金に糸目を付けない」の語源・由来
「金に糸目を付けない」の「金」は金銭を指し、「糸目」は凧(たこ)の表面に付けて、揚がり具合を調節する糸を指します。ここでいう糸目は、凧を手元から操る一本の揚げ糸そのものではなく、凧の姿勢や風の受け方を整えるための糸です。
凧に糸目を付けると、風を受ける角度やつり合いを調節できます。反対に、糸目を付けなければ凧をうまく制御できず、風のままに動いてしまいます。
この具体的な働きから、「糸目を付ける」は物事に制限を加えることを、「糸目を付けない」は何の制限も加えないことを表すようになりました。さらに、金品を使う場面で多く用いられるようになり、出費に限度を設けないという意味が定着しました。
「糸目を付ける」という言い方の古い例は、歌舞伎『暫(しばらく)』(1714年・江戸時代中期)に出てきます。この段階では、凧の揚がり具合を調節するために糸目を付けるという、もとの具体的な意味で使われています。
やがて「糸目」は、凧の糸という意味から離れ、物事を進めるための資金をも表すようになりました。洒落本(しゃれぼん)『四十八手後の巻』(1818年ごろ・江戸時代後期)には、二人のために使う金を「いとめ」と呼ぶ用例があります。
ここでは、凧をつなぎ留める糸が、物事を成り立たせる金銭へと意味を広げています。この用法は、「糸目」と金銭とが結び付いていく過程を示す古い例です。
さらに、松亭金水の人情本『縁結娯色の糸』(1839〜1848年・江戸時代後期)には、「謝物に糸目は附けねえ」とあります。「謝物(しゃもつ)」は謝礼として贈る金品のことで、うまく事が運べば謝礼を惜しまない、という意味です。
この用例では、「糸目を付けない」が、すでに金品の額に制限を設けないという、現在に近い意味で使われています。「金に糸目を付けない」という形が現れる前に、まず「謝物に糸目を付けない」のような言い回しが用いられていたことが分かります。
現在の表現に直接つながる古い用例は、河竹黙阿弥作の歌舞伎『梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)』(明治6年、1873年)にあります。この作品は、同年6月に東京の中村座で初演され、現在では「髪結新三(かみゆいしんざ)」の通称でも知られています。
その二幕に、「そりゃもう二十が三十でも、金に糸目は附けませぬ」とあります。金額が二十から三十へ増えても構わないという言い方によって、必要な金を惜しまないことを明確に表しています。
明治35年の内田魯庵の小説集『社会百面相』(1902年)にも、「金に糸目を着けん」という形が使われています。明治時代には、この表現が、費用を惜しまず金を使う言い方として広まっていたことがうかがえます。
古い用例には、「附けませぬ」「付けぬ」「着けん」などの表記や語尾があり、現在は「付けない」という形が広く使われています。いずれも、金の使い道に制限を設けないという意味は共通しています。
なお、「糸目」を「厭(いと)い目」、つまり、惜しんだりためらったりする気持ちの表れとみる説もあります。ただし、一般には、凧を制御する糸目を付けないことから生まれた表現として説明されます。
このように、凧の動きを抑える糸が、物事や出費を抑える制限のたとえとなり、さらに「金に糸目を付けない」という形へと定着しました。目的のためなら出費を抑えないという強い意志を、制御の利かない凧の姿に重ねた表現です。
「金に糸目を付けない」の使い方




「金に糸目を付けない」の例文
- 祖父は貴重な古書を手に入れるためなら、金に糸目を付けない。
- 会社は新しい治療薬を開発するため、研究費に金に糸目を付けない方針を示した。
- 城の傷んだ壁を昔の姿に戻すため、市は修復工事に金に糸目を付けない構えだ。
- 彼は愛犬の命を救うためなら、治療費に金に糸目を付けないと決めていた。
- その監督は、理想の映像を完成させるため、映画の美術費に金に糸目を付けない。
- その収集家は、幻の名品を探し出すために金に糸目を付けないことで知られている。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松亭金水『縁結娯色の糸』1839〜1848年。
・河竹黙阿弥『梅雨小袖昔八丈』1873年。
・内田魯庵『社会百面相』1902年。
・Cambridge University Press & Assessment, Cambridge Dictionary, “expense.”























