【慣用句】
鹿島立ち
【読み方】
かしまだち
【意味】
旅に出発すること。旅立ち。門出。


【英語】
・setting out(旅立ち・出発)
・departure(出発・門出)
【類義語】
・旅立ち(たびだち)
・出立(しゅったつ)
・門出(かどで)
【対義語】
・到着(とうちゃく)
・帰着(きちゃく)
「鹿島立ち」の語源・由来
「鹿島立ち」は、鹿島という地名と、そこから立ち出るという意味が結びついた言葉です。現在は、旅に出ること、また新しい道へ出発することを表します。
由来には、大きく二つの説明が伝わっています。一つは、防人(さきもり)や武士が旅立つ前に、鹿島神宮で道中の無事を祈ったことにちなむという説明です。
防人は、古代に九州北部や壱岐(いき)、対馬(つしま)などの守りに向かった人々です。東国から選ばれた防人たちが、遠い任地へ出発する前に、鹿島神宮で安全と帰郷を祈ったことが「鹿島立ち」の起こりと伝わります。
この背景には、白村江(はくすきのえ)の戦いの後、国の守りを強めるために防人が置かれた歴史があります。東国の人々にとって、鹿島は遠い任務へ向かう前に祈りをささげる、たいせつな出発の地でした。
江戸時代中期の『本朝世事談綺』(1734年・江戸時代中期、菊岡沾涼述)にも、この防人・武士の出発に関わる説明が伝えられています。旅の安全を願ってから出発するという行いが、のちに「旅立ち」を表す言葉として受け取られるようになったといえます。
もう一つは、鹿島・香取の神々に関わる神話的な説明です。鹿島神宮の武甕槌大神(たけみかづちのおおかみ)と、香取神宮の経津主大神(ふつぬしのおおかみ)が、国を平定するために出発したことにちなむというものです。
国譲りの神話では、天照大神の命を受けた神々が、葦原中国(あしはらのなかつくに)を譲るよう大国主神に迫り、国を平定する流れが語られます。『日本書紀』では、建御雷神と経津主神が天降り、豊葦原水穂国を平定したと伝えています。
江戸時代の国語辞書『和訓栞』(1777〜1805年刊行、谷川士清纂)には、鹿島・香取の神が天孫降臨に先立って国を平定したことに基づく説明があります。鹿島から「立つ」という発想が、神の出発の場面と結びつけて考えられていたことが分かります。
古い用例としては、『菟玖波集(つくばしゅう)』(1356年・南北朝時代、二条良基・救済共撰)の羇旅(きりょ)の部に、「けふの渡りの舟のかぢとり これぞこの旅のはじめの鹿島立」とあります。舟で渡る旅の始まりを「鹿島立」と表しており、すでに旅立ちの意味で使われていました。
この用例では、「鹿島立」は神話の説明そのものではなく、旅の始まりを表す言葉として使われています。つまり、中世にはすでに、鹿島の名を借りて「旅立ち」を表す言い方が定着していたといえます。
古い表記では「鹿島立」とも書かれ、現在の見出しでは「鹿島立ち」と送り仮名を添える形も用いられます。どちらも読みは「かしまだち」で、旅に出ること、旅立ち、出立を表す言葉として理解されます。
現在の「鹿島立ち」は、遠い旅行だけでなく、新生活や仕事、進学などの門出にも使われます。もとは鹿島神宮や神話・防人の出発と結びついた言葉ですが、今では「無事を願って送り出す旅立ち」という、明るく改まった響きをもつ表現になっています。
「鹿島立ち」の使い方




「鹿島立ち」の例文
- 大学進学で故郷を離れる兄の鹿島立ちを、家族みんなで見送った。
- 新しい支店へ赴任する部長の鹿島立ちに、同僚たちは花束を贈った。
- 長い船旅に出る友人の鹿島立ちを祝い、港で小さな送別会を開いた。
- 留学へ向かう娘の鹿島立ちの日、母は無事を願ってお守りを持たせた。
- 春の異動で町を離れる先生の鹿島立ちに、生徒たちは感謝の手紙を渡した。
- 会社を辞めて新しい仕事に挑む彼の鹿島立ちは、静かだが力強い門出となった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館。
・二条良基・救済共撰『菟玖波集』1356年。
・菊岡沾涼『本朝世事談綺』1734年。
・谷川士清纂『和訓栞』1777〜1805年。
・Merriam-Webster『Merriam-Webster Dictionary.』
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』























