【慣用句】
機先を制する
【読み方】
きせんをせいする
【意味】
相手より先に行動して、相手の計画や勢いをくじくこと。


【英語】
・forestall someone.(相手の動きを先に押さえる)
・beat someone to the punch.(相手より先に動く)
【類義語】
・先手を打つ(せんてをうつ)
・先んずれば人を制す(さきんずればひとをせいす)
・出端を挫く(ではなをくじく)
【対義語】
・後手に回る(ごてにまわる)
・遅れを取る(おくれをとる)
「機先を制する」の語源・由来
「機先を制する」は、「機先」と「制する」から成る言い方です。「機先」は、物事が起ころうとする直前や、人が事を起こそうとする直前を表し、「制する」は、人の行動を押さえとどめたり、重要なところを自分の手に収めたりする意味をもつ言葉です。
「機先」という言葉は、古くは「きせん」のほかに「きさき」とも読まれました。「きさき」には前兆・前触れという意味もあり、何かが起こる前のしるしや、その直前の時点をとらえる語として使われてきました。
鎌倉時代の仏書である道元の『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)』(1231〜1253年の間に和語で記された書物)にも、「機先の道理なるゆゑに」という形が出てきます。ここでの「機先」は、現在の慣用句そのものではなく、はたらきが起こる前の道理を表す文脈で用いられています。
中国の漢語でも、「機先」は「きざし」の意味をもつ言葉として用いられました。『宋書』「恩倖・徐爰伝」の用例は、「機先」が、物事がはっきり形を取る前の兆しや始まりに関わる言葉であったことを示しています。
このように、「機先」はもともと、物事がまだ表面に現れきらない早い段階を指す言葉です。そこに「制する」が結びつくことで、相手が動き出す直前を押さえ、こちらが流れをつかむという意味が生まれました。
近代の用例では、国木田独歩の『巡査』(1902年)に「常に無形に見、無形に聴き、以て其機先を制す」とあります。まだ形になっていない動きを見聞きし、事が起こる前に押さえるという考えが、この表現の意味をよく表しています。
この場面では、事件が起こってから大きな手柄を立てるより、目に見えない兆しを早く察し、問題を起こさせないことがよいと語られています。「無形」を見聞きするという言い方は、相手や状況の動きを先に読むことと深く結びついています。
同じ作品の会話には、「十分精神を養ってその機先を制す」という言い方も出てきます。ここでは重い教訓としてだけでなく、先回りして対処するという言い回しが、会話の中でも使われています。
近代の用例には「機先を制す」とあり、現在では「機先を制する」という形でも広く用いられます。どちらも、相手が事を行う直前にこちらが行動し、相手の計画や気勢を抑える意味につながります。
なお、「制する」は、押さえとどめる、または支配するという意味の字を用います。そのため、「機先を征する」と書くのは誤りであり、武力で攻め従わせるという意味の「征する」とは区別して用います。
現在の「機先を制する」は、試合、交渉、議論、仕事など、相手や状況の動きを早く読んで優位に立つ場面で使われます。ただ早く始めるだけでなく、相手が動こうとする直前をとらえ、流れをこちらに引き寄せるところに、この慣用句の大切な意味があります。
「機先を制する」の使い方




「機先を制する」の例文
- 新商品を競合より早く発表し、会社は市場で機先を制することに成功した。
- 討論会では、最初に具体的な資料を示して相手の機先を制する必要がある。
- 相手チームの速攻を読んで先に守備位置を変え、試合の流れで機先を制する。
- 苦情が広がる前に丁寧な説明を出し、担当者は問題の機先を制する対応を取った。
- 交渉では、相手の要求を待たずに代案を示すことで機先を制することがある。
- 防災訓練で早めに避難経路を確認しておけば、非常時の混乱に対して機先を制することができる。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・白川静著『字通 普及版』平凡社、2014年。
・集英社辞典編集部編『ルーツでなるほど慣用句辞典』集英社、1991年。
・道元『正法眼蔵』1231〜1253年。
・国木田独歩『巡査』1902年。
・EDP・アルク『英辞郎 on the WEB』。























