【ことわざ】
朝の来ない夜はない
【読み方】
あさのこないよるはない
【意味】
ものごとは必ずいつか、よい方へ変わるということ。苦しい状況はいつまでも続くものではなく、いずれ好転するというたとえ。


【英語】
・After night comes the day.(夜のあとには昼が来る)
・The darkest hour is just before the dawn.(夜明け前がいちばん暗い)
・If winter comes, can spring be far behind?(冬が来たなら、春が遠いはずがない)
【類義語】
・明けない夜はない(あけないよるはない)
・止まない雨はない(やまないあめはない)
・冬来たりなば春遠からじ(ふゆきたりなばはるとおからじ)
【対義語】
・一難去ってまた一難(いちなんさってまたいちなん)
・弱り目に祟り目(よわりめにたたりめ)
「朝の来ない夜はない」の語源・由来
このことわざは、夜がどれほど暗く長く感じられても、時が進めば必ず朝になるという自然の事実をもとにしています。そこから、人のつらい時期や困難も永遠には続かず、やがてよい方へ変わるという意味で使われます。
「夜」と「朝」の対比は、古くから人の心に分かりやすい形で受け止められてきました。夜は不安、苦しみ、先の見えなさを表し、朝は回復、希望、新しい始まりを表しやすい言葉です。
「朝の来ない夜はない」という形では、「朝が来る」という到達点がはっきり示されています。暗い時間が終わるだけでなく、明るい時間が必ず訪れるという励ましが、短い言葉の中に含まれています。
このことわざには、「夜の明けない朝はない」という近い形もあります。言い回しは少し違いますが、どちらも、苦しい状況はいずれよい方へ変わるという考え方を表しています。
近い表現の「明けない夜はない」は、暗い夜も朝になれば必ず明けるように、不遇な状況でもやがてよい時期が訪れるという意味を持ちます。「朝の来ない夜はない」と同じく、夜明けを希望のたとえとして用いる言い方です。
「朝のこない夜はない」というかな書きの形も使われてきました。漢字を交えた「朝の来ない夜はない」と、かな書きの「朝のこない夜はない」は、表記は違っても、意味の中心は同じです。
この言葉は、吉川英治(よしかわえいじ、1892〜1962年)と結びつけて伝えられてきました。吉川英治は、神奈川に生まれ、『宮本武蔵』『新・平家物語』『私本太平記』などを書いた、大正・昭和期の小説家です。
吉川英治は、少年時代からさまざまな職業を経験し、その後、小説家として多くの読者に親しまれるようになりました。その歩みを思うと、このことわざが、ただ明るい未来を待つだけでなく、苦しい時期をこらえて進む心を支える言葉として受け止められてきたことが分かります。
扇谷正造(おうぎやしょうぞう)『若者よ!朝のこない夜はない』(1971年・昭和46年、扇谷正造著)では、この題名の言葉が、吉川英治の言葉として紹介されています。頼まれると吉川英治がよく揮毫(きごう:頼まれて文字を書くこと)した言葉の一つであった、という形で伝えられています。
また、扇谷正造には「朝のこない夜はない:吉川英治氏におそわったこと」(1973年・昭和48年、扇谷正造著)という文章もあります。題名そのものから、この言葉が吉川英治から受けた教えとして大切に扱われていたことがうかがえます。
このため、「朝の来ない夜はない」は、中国古典の特定の故事から生まれた故事成語ではなく、日本語の中で励ましの言葉として定着したことわざとして扱うのが自然です。自然の道理をもとにした分かりやすさと、吉川英治の言葉として伝えられた背景が重なり、現在の用法につながっています。
現在では、学校生活の悩み、家庭の苦労、仕事の不調、病気やけがからの回復、社会全体の困難など、広い場面で用いられます。ただし、何もしなくても必ずよい結果になるという意味ではなく、暗い時期にも希望を失わず、できることを続ける人を支える言葉です。
「朝の来ない夜はない」の使い方




「朝の来ない夜はない」の例文
- 転校直後は毎日が不安だったが、朝の来ない夜はないと信じて、少しずつクラスの友人に声をかけた。
- けがで大会に出られなかった兄は、朝の来ない夜はないと思いながら、毎朝リハビリを続けた。
- 店の売り上げが落ち込んだ時期も、父は朝の来ない夜はないと社員を励まし、新しい商品作りに取り組んだ。
- 長雨で地域の行事が何度も延期になったが、朝の来ない夜はないと、みんなで準備を続けた。
- 何度応募しても作品が選ばれなかったが、朝の来ない夜はないと考え、文章を直し続けた。
- 友人との仲直りに時間がかかっても、朝の来ない夜はないという思いが、相手に向き合う勇気をくれた。
主な参考文献
・新村出編『広辞苑 第六版』岩波書店、2008年。
・国書刊行会編『心に響く名言辞典』国書刊行会、1992年。
・扇谷正造『若者よ!朝のこない夜はない』青春出版社、1971年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary』。























