【ことわざ】
大所の犬となるとも小所の犬となるな
【読み方】
おおどこのいぬとなるともこどこのいぬとなるな
【意味】
どうせ人に仕えたり身を寄せたりするなら、勢力があり、頼りになる相手を選べというたとえ。


【類義語】
・犬になるとも大所の犬になれ(いぬになるともおおどこのいぬになれ)
・寄らば大樹の陰(よらばたいじゅのかげ)
【対義語】
・鶏口となるも牛後となるなかれ(けいこうとなるもぎゅうごとなるなかれ)
「大所の犬となるとも小所の犬となるな」の語源・由来
「大所の犬となるとも小所の犬となるな」は、飼い犬になるのなら、力の乏しい小さな家よりも、暮らしが安定した大きな家の犬になったほうがよい、という生活に身近なたとえから生まれたことわざです。そこから、人に仕えたり、身を寄せたりする場合には、頼るに足る、しっかりした相手を選ぶべきだという意味になりました。
「大所(おおどこ)」は、「大所(おおどころ)」を短くした言い方で、大きな構えの家や財産家を指します。また、勢力のある主だった人物という意味でも使われます。一方、「小所」は、資産の乏しい家を表します。したがって、大所と小所の対比は、単なる建物の大小ではなく、主人の財力や社会的な力の差を示しています。
『日本永代蔵(にっぽんえいたいぐら)』(1688年・江戸時代前期、井原西鶴著)には、奉公先について「大所に使はれなば」と述べる箇所があります。ここでの「大所」は、奉公人が仕える大きな商家や裕福な家を指しており、江戸時代の町人社会で、力のある家を表す言葉として使われていたことが分かります。
また、「犬」は古くから、主人に忠実に仕える者のたとえにも用いられました。『太平記(たいへいき)』(14世紀後半成立、室町時代)にも、人をある者の「犬」と呼び、その者に従う立場を表した例があります。このことわざの「犬」にも、飼い犬という具体的な姿と、主人に従う人という比喩の両方が重なっています。
この考えをはっきりと示す古い形が、「犬になるとも大所の犬になれ」です。太田全斎の『諺苑(げんえん)』(1797年・江戸時代後期)に収められており、たとえ低い立場で人に仕えることになっても、相手や主人はよく選ばなければならないという教えを表しています。『諺苑』は、当時の俗語やことわざを集め、いろは順に並べた書物です。
「犬になるとも大所の犬になれ」という形では、大所を選ぶよう直接すすめています。これに対して、「大所の犬となるとも小所の犬となるな」は、大所と小所を一つの文の中で対比させ、小さく頼りない相手には仕えるなという戒めを加えた形です。意味の中心は同じですが、後者では、選ぶべき相手と避けるべき相手がより鮮明に示されています。
表記には、「小所」の代わりに「小家」を用いた「大所の犬となるとも小家の犬となるな」という形もあります。「小家」は、小さな家のほか、社会的地位が低く、裕福でない家を指します。そのため、「小所」と「小家」は、どちらも頼る力に乏しい家を表し、このことわざでは、ほぼ同じ役割を果たしています。
明治時代には、禽語楼小さんの落語『出世の鼻』(1892年・明治25年)に、「立ち寄らば大樹の陰」と並べて、「犬になっても大家の犬になれ」という形が出てきます。大きな家や有力な主人を頼るほうがよいという教えが、落語の中でも通じるほど広く知られていたことを示す用例です。
よく似た「寄らば大樹の陰」は、頼るなら勢力のある人を選ぶのが得策だと説きます。「大所の犬となるとも小所の犬となるな」は、それに加えて、主人に従う犬の姿を用い、仕える相手を慎重に選ぶことを強く求める表現です。反対に、「鶏口となるも牛後となるなかれ」は、大きな組織の末端になるよりも、小さな組織の長となるほうがよいと説き、正反対の考えを表します。
このことわざは、力のある者に無条件で従うようすすめるものではありません。どうしても人に仕え、助けを受ける必要があるなら、その相手が堅実で信頼できるかをよく見極めるべきだ、という現実的な知恵を伝えています。
「大所の犬となるとも小所の犬となるな」の使い方




「大所の犬となるとも小所の犬となるな」の例文
- 奉公先を決める息子に、父は大所の犬となるとも小所の犬となるなと教えた。
- 同じ弟子入りをするなら名望のある師を選べと、大所の犬となるとも小所の犬となるなを引き合いに出した。
- 大所の犬となるとも小所の犬となるなという考えから、彼は経営の安定した会社への就職を選んだ。
- 領主に仕える若者は、大所の犬となるとも小所の犬となるなと考え、信頼できる主君を探した。
- 共同事業の相手を決める際、社長は大所の犬となるとも小所の犬となるなと、実績のある企業を選んだ。
- 大所の犬となるとも小所の犬となるなとは、身を預ける相手の力と堅実さを見極めよという教えである。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館大辞泉編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・井原西鶴『日本永代蔵』1688年。
・禽語楼小さん『出世の鼻』1892年。























