【ことわざ】
親の意見と冷や酒は後で効く
【読み方】
おやのいけんとひやざけはあとできく
【意味】
親の忠告は、その場では聞き流してしまっても、後になって正しさやありがたさが分かるということ。冷や酒の酔いが、しばらくたってから回ることにたとえる。


【類義語】
・親の意見と茄子の花は千に一つも無駄はない(おやのいけんとなすびのはなはせんにひとつもむだはない)
「親の意見と冷や酒は後で効く」の語源・由来
「親の意見と冷や酒は後で効く」は、二つの異なるものに共通する「後から効いてくる」という性質を並べたことわざです。冷や酒は、飲んだときには口当たりがよくても、しばらくしてから酔いが回るものと捉えられてきました。それと同じように、親の忠告も、聞いた直後にはうるさく思えても、時がたってから、その正しさやありがたみが心にしみるという意味です。
このことわざの「意見」は、単なる考えや主張ではありません。日本語の「意見」には、自分の考えを述べて相手の過ちをいさめ、改めさせようとする意味があります。この用法は『平家物語』(13世紀前半成立、鎌倉時代)にも出ており、中世後期からは、目上の者が目下の者を戒める場合に多く使われるようになりました。そのため、「親の意見」とは、子供の将来を思って親が与える忠告や訓戒を指します。
「冷や酒」は、もともと必ずしも冷蔵庫で冷たくした酒を意味するものではありません。古くは、燗(かん)をせず、そのまま飲む酒を指しました。「ひやざけ」という言葉は、『易林本節用集(えきりんぼんせつようしゅう)』(1597年・安土桃山時代)に収められ、『句兄弟(くきょうだい)』(1694年・江戸時代前期)にも「冷酒やはしりの下の石だたみ」とあります。燗をした酒と区別される、日常的な飲み方として、早くから使われていた言葉です。
現在のことわざにつながる古い形として、「冷や酒と親の意見は後の薬」があります。この形は、『俚言集覧(りげんしゅうらん)』(1797〜1829年ごろ成立、江戸時代後期、太田全斎編)に収められています。「後の薬」とは、その場ですぐには効果が分からなくても、後になって役に立つものという意味です。親の忠告を、時間がたってから効き目を表す薬になぞらえた言い方でした。
『俚言集覧』は、太田全斎が1797年にまとめた俗語・ことわざの辞書『諺苑(げんえん)』をもとに、語を増やして編み直したものです。成立後は写本の形で伝わり、井上頼圀と近藤瓶城が並び方を改めて増補した『増補俚言集覧』が、1899年から1900年にかけて刊行されました。これによって、そこに収められた昔の言葉やことわざが、広く利用されるようになりました。
古い形では、「冷や酒と親の意見」と冷や酒が先に置かれていましたが、現在では「親の意見と冷や酒」とする形も広く定着しています。また、結びにも、「後の薬」「後にきく」「後から利く」「後で利く」などの違いがあります。いずれも、初めにははっきりしなかった作用や価値が、時間の経過とともに現れることを表しています。
「きく」の表記には、「利く」と「効く」の両方があります。「利く」は、酒の酔いや言葉の働きが現れることを表し、「効く」は、効果が現れることを分かりやすく示す表記です。表記や語順に違いはあっても、親の忠告は、すぐには理解できなくても、後の経験によってその真意が分かるという教えは共通しています。
このことわざは、親の言葉なら何でも必ず正しいと言い切るものではありません。若いときには理解できなかった人生経験に基づく忠告が、自分で失敗や苦労を経験した後になって、初めて身にしみることがあると教えています。「後で効く」という言い方には、親の言葉をすぐに捨てず、心の片隅にとどめておくことの大切さも込められています。
「親の意見と冷や酒は後で効く」の使い方




「親の意見と冷や酒は後で効く」の例文
- 一人暮らしを始めてから、親の意見と冷や酒は後で効くという言葉の意味を実感した。
- 健康を損ねて初めて父の忠告を思い出し、親の意見と冷や酒は後で効くものだと悟った。
- 若いころは聞き流していたが、親の意見と冷や酒は後で効くというとおり、母の言葉は今も心に残っている。
- 友人との約束を破って後悔した彼は、親の意見と冷や酒は後で効くとつぶやいた。
- 親の意見と冷や酒は後で効くから、耳に痛い忠告も忘れずに覚えておいたほうがよい。
- 仕事で失敗したとき、親の意見と冷や酒は後で効くという祖父の教えが身にしみた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・太田全斎編『俚言集覧』江戸時代後期成立。
・井上頼圀・近藤瓶城増補『増補俚言集覧』皇典講究所印刷部、1899〜1900年。























