【ことわざ】
今日は人の上、明日は我が身の上
【読み方】
きょうはひとのうえ、あすはわがみのうえ
【意味】
今日、他人に起こった災難が、明日は自分にも降りかかるかもしれないということ。他人の苦難を自分には関係のないこととして見過ごしてはならないという戒め。


【英語】
・There but for the grace of God go I.(自分も同じ不幸な立場になっていたかもしれない)
【類義語】
・昨日は人の身、今日は我が身(きのうはひとのみ、きょうはわがみ)
・明日は我が身(あすはわがみ)
「今日は人の上、明日は我が身の上」の語源・由来
「今日は人の上、明日は我が身の上」は、「今日」と「明日」、「人」と「我が身」を対にした言い方です。ここでいう「人の上」は、他人の頭上という意味ではなく、他人の境遇や身の上を指します。今日は他人に起こっている災難も、時や立場が変われば、明日には自分の身の上に起こるかもしれないということを表しています。
現在のことわざにつながる古い表現は、『平治物語(へいじものがたり)』(鎌倉時代前期から中期ごろ原型成立、作者未詳)に出てきます。『平治物語』は、平治元年、すなわち1159年に起こった平治の乱を、源氏と平氏の戦いを中心に描いた軍記物語です。
巻下の「悪源太誅せらるる事」では、源義朝の長男である源義平が、平治の乱に敗れたのちに捕らえられ、六条河原で処刑されようとします。義平は処刑を前にしてもひるまず、敵である平氏の者たちに向かって、「弓矢取る身の習ひは、今日は人の上、明日は身の上にてある物を」と語ります。
この言葉は、武士の運命は変わりやすく、今日、人を処刑する側にいる者も、明日には自分が処刑される側になるかもしれないという意味です。義平は、敵に対してさえ、いつか立場が逆になる可能性を忘れず、武士としての情けを失ってはならないと訴えています。
したがって、このことわざは、単に「自分にも災難が起こるから用心せよ」と教えるだけの言葉ではありません。人の苦しみを他人事として眺めず、その人の立場を我が身に引き寄せて考えるよう促す意味も、古い用例には、はっきりと表れています。
『平治物語』の形は「今日は人の上、明日は身の上」であり、現在の形にある「我が」の文字は入っていません。また、「今日は人の身の上、明日は我が身の上」という形もあります。「我が」を補い、「人の上」と「我が身の上」を対にすることで、他人と自分との立場の入れ替わりが、より分かりやすく表されるようになりました。
このことわざと同じ考え方は、鎌倉時代初期の和歌にも表れています。『新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)』(1205年成立)には、加賀少納言の「なき人を偲ぶることもいつまでぞ 今日のあはれはあすの我身を」という歌があります。亡くなった人を悲しんでいる自分も、いつかは人から悲しまれる立場になるという、人の命のはかなさを詠んだ歌です。
この和歌がことわざの直接のもとになったとは言い切れませんが、「今日の他人の悲しみが、明日には我が身のことになる」という考えが、中世の文学の中で広く語られていたことが分かります。戦いの勝敗や人の生死が急に変わる時代に、他人と自分の運命を切り離さずに考える教えとして、受け止められてきました。
後には、「昨日は人の身、今日は我が身」や「明日は我が身」という、時の移り変わりをさらに短く表した形も定着しました。「今日は人の上、明日は我が身の上」は、その中でも、他人の身に起こった災難を見過ごしてはならないという戒めを、最も整った対句の形で伝えることわざです。
「今日は人の上、明日は我が身の上」の使い方




「今日は人の上、明日は我が身の上」の例文
- 友人の失敗を笑わず、今日は人の上、明日は我が身の上と考えて自分の行動を見直した。
- 近所の火事を知った父は、今日は人の上、明日は我が身の上と言って、家の火の元を点検した。
- 今日は人の上、明日は我が身の上なのだから、病気で休んでいる人を冷たく扱ってはならない。
- 同業の会社で起きた事故を、今日は人の上、明日は我が身の上と受け止め、安全管理を改めた。
- 災害に遭った人々の苦しみを、今日は人の上、明日は我が身の上という心で考える必要がある。
- 彼は仲間の失敗を他人事とは思わず、今日は人の上、明日は我が身の上と自らを戒めた。
主な参考文献
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『平治物語』鎌倉時代前期から中期ごろ原型成立。
・『新古今和歌集』1205年。
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary.』























