【ことわざ】
内で蛤、外では蜆
【読み方】
うちではまぐり、そとではしじみ
【意味】
家の中では大きな顔をしているが、外では気が小さくなり、おとなしくしていることのたとえ。


【英語】
・A lion at home, a mouse abroad(家では強いが、外では弱い人)
【類義語】
・内弁慶の外地蔵(うちべんけいのそとじぞう)
・内広がりの外すばり(うちひろがりのそとすばり)
「内で蛤、外では蜆」の語源・由来
「内で蛤、外では蜆」は、蛤と蜆という二つの貝の大きさの違いを、人の態度の違いに重ねたことわざです。家の中では蛤のように大きく見せ、外へ出ると蜆のように小さくなる、という対比で成り立っています。
「蛤」は、丸みのある三角形の殻をもつ二枚貝で、殻長は約八センチメートルとあります。食用としても古くから親しまれ、貝の中でも大ぶりで、見た目に存在感のあるものとして受け取られてきました。
「蜆」は、シジミ科の二枚貝の総称で、通常は殻長約三センチメートルとあります。蛤に比べると小さな貝であるため、このことわざでは、外に出たときの気の小ささを表す材料になっています。
このことわざのたとえは、貝そのものの性質をいうものではありません。蛤を「大きな顔」、蜆を「小さくなる姿」に見立て、場所によって態度が変わる人のふるまいを、目に浮かびやすい形で言い表しています。
「内」は家の中や家庭を指し、「外」は家庭の外、つまり世間や人前を指します。そのため、このことわざでは、家族の前での強さと、外での弱さが、はっきり向かい合う形で表されています。
同じ考え方を表す言い方には、「内広がりの外窄り」があります。『譬喩尽』(1786年・江戸時代後期、松葉軒東井編)には、「内(ウチヒロガ)りの外窄(ソトスボリ)」という用例があり、家では広がるように威張り、外ではすぼむように小さくなるという発想が、江戸時代のことわざ資料にも見られます。
「内広の外窄り」には、「内に居る時の蛤貝、外へ出た時の蜆貝」という言い方も添えられています。これは、現在の「内で蛤、外では蜆」と同じ組み立てをもつ表現で、蛤と蜆の対比が、家と外での態度の差を表すたとえとして用いられていたことを示しています。
近代の用例としては、志賀直哉の『万暦赤絵』(1933年・昭和時代、志賀直哉著)に「内で蛤、外では蜆で」という形が出てきます。『万暦赤絵』は、1933年に『中央公論』に発表された作品です。
その場面では、不相応に立派な旅行に慣れない人物が、恐縮したり当惑したりしながら、外では小さくなろうとする心持ちを表しています。家の中で大きくふるまう姿と、外で身をすくめる姿との落差が、このことわざの意味に重なっています。
また、「内蛤外蜆」という短い形も伝わります。長い言い方、短い言い方、そして「内広がりの外すばり」「内弁慶の外地蔵」のような類語が並ぶことで、家では強く、外では弱いという人間の態度が、さまざまなたとえで言い表されてきたことが分かります。
現在の「内で蛤、外では蜆」は、身近な人には威張るのに、外では急に弱くなる人を、少し皮肉をこめていうことわざとして使われます。蛤と蜆という分かりやすい大小の対比によって、態度の大きさと小ささを一目で伝える表現です。
「内で蛤、外では蜆」の使い方




「内で蛤、外では蜆」の例文
- 兄は家では強い口調で話すが、近所の集まりでは急に黙り込み、内で蛤、外では蜆そのものだ。
- 部長は部下の前では威張るのに、取引先の前では小さくなり、内で蛤、外では蜆と言われている。
- 家族には強く出る父も、町内会では発言を遠慮してばかりで、内で蛤、外では蜆のようだ。
- 内で蛤、外では蜆にならないよう、身近な人にも外の人にも同じように礼儀正しく接したい。
- 弟は家では口が達者だが、学校の発表になると声が出ず、内で蛤、外では蜆だと姉にからかわれた。
- 内で蛤、外では蜆という言葉は、場所によって態度が大きく変わる人への戒めにもなる。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会編『漢検漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・松葉軒東井編『譬喩尽』1786年。
・志賀直哉『万暦赤絵』1933年。
・筑波大学留学生センター『日本語学習者辞書』。























