【ことわざ】
明日の事を言えば鬼が笑う
【読み方】
あすのことをいえばおにがわらう
【意味】
未来のことは前もって知ることができないというたとえ。気の早い予想や決めつけを、少しからかう気持ちで戒める言葉。


【英語】
・Nobody knows what lies ahead of us.(これから何が起こるかは誰にも分からない)
・There is no telling what will happen next year.(来年何が起こるかは分からない)
【類義語】
・来年の事を言えば鬼が笑う(らいねんのことをいえばおにがわらう)
・一寸先は闇(いっすんさきはやみ)
・明日知らぬ(あすしらぬ)
【対義語】
・備えあれば憂いなし(そなえあればうれいなし)
・転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)
「明日の事を言えば鬼が笑う」の語源・由来
このことわざは、中国古典の一つの故事から生まれたものではなく、日本で用いられてきた「鬼が笑う」という言い回しを軸にしたことわざです。「鬼が笑う」は、実現するかどうか分からないことや、見通しのはっきりしないことを言ったとき、それをからかう言葉として使われてきました。人間が、まだ分からない未来を知ったように語ると、人間を超えた存在である鬼でさえ笑ってしまう、という発想がこの表現の核になっています。
現在の「明日の事を言えば鬼が笑う」は、「明日の事を思えば鬼が笑う」という形でも示され、世の中のことは予見できないことをいう表現です。また、この形は「来年の事を言うと鬼が笑う」と結びつけて理解されてきました。「明日」はすぐ先の時間ですが、その明日でさえ確かなことは分からない、という点にこのことわざの力があります。
よく知られた形としては、「来年の事を言えば鬼が笑う」があります。こちらは、明日何が起こるかも分からないのに、来年のことなど分かるはずがなく、将来のことをあれこれ言っても始まらない、という意味で用いられてきました。つまり、「明日」と「来年」は別々の時間を指しながら、どちらも「未来は人間の思いどおりには見通せない」という同じ考えを表しています。
近代の用例としては、『夜窓鬼談』(1889〜1894年、石川鴻斎編著)に、鬼が人々の先々の話を聞いて笑う場面があります。そこでは「来年の事を言えば、鬼の為に笑わる」という形で、来年だけでなく十余年後の話までしている人間たちを、鬼がこらえきれず笑う筋立てになっています。この用例では、未来を軽々しく約束することへの戒めが、鬼の笑いという形で強く表されています。
このことわざは、江戸中期からよく使われるようになり、江戸後期には上方のいろはかるたにも収められて、広く親しまれるようになりました。いろはかるたは、ことわざを書いた読札と取札で遊ぶ子どもの正月遊びとして広まり、上方で作られた形と江戸で作られた形とで、収められたことわざにも地域差がありました。こうした遊びを通して、短く覚えやすいことわざが暮らしの中へ定着していきました。
明治時代の文章にも、この考え方は自然に現れます。井上円了の『円了茶話』(1902年)には、「来年のことを語れば鬼に笑わるる」という言い方が出てきます。この文脈では、人の命や運命は明日さえ分からないという思いが述べられ、未来を確かに分かったものとして語ることへの慎みにつながっています。
のちには、獅子文六の『信子』(1938〜1940年)にも「来年のことをいうと、鬼が笑いますわよ」という会話の形で用例が出てきます。ここでは、深刻な説教というより、相手の先走った言い方を軽くたしなめる、日常会話に近い使い方になっています。このように、もとは未来の不可知を戒める言葉でしたが、現代では冗談めかして、気の早い発言をやわらかく止める表現としても使われます。
したがって「明日の事を言えば鬼が笑う」は、未来を考えるなという意味ではありません。計画や準備は大切ですが、まだ来ていない結果を決めつけて得意になったり、分かったように言い切ったりすることを戒めることわざです。鬼の笑いは、人間の知恵の限界を、少しユーモラスに思い出させる役目を持っています。
「明日の事を言えば鬼が笑う」の使い方




「明日の事を言えば鬼が笑う」の例文
- 発表会の前から必ず最優秀賞を取ると言い切るのは、明日の事を言えば鬼が笑うというものだ。
- 明日の事を言えば鬼が笑うので、旅行の天気を決めつけず、雨具も用意しておく。
- 合格発表の前に入学後の席順まで心配する兄を見て、母は明日の事を言えば鬼が笑うと言った。
- 新商品の売れ行きを発売前から大成功と決めるのは、明日の事を言えば鬼が笑うに近い。
- 試合の前日に勝利インタビューの文句を考えている友人へ、明日の事を言えば鬼が笑うと忠告した。
- 明日の事を言えば鬼が笑うとはいえ、準備を怠らず、結果を静かに待つことが大切だ。
主な参考文献
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・小学館『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館。
・石川鴻斎編著『夜窓鬼談』吾妻健三郎、1889〜1894年。
・井上円了『円了茶話』1902年。























