【故事成語】
君君たり臣臣たり
【読み方】
きみきみたりしんしんたり
【意味】
主君は主君としての道を尽くし、臣下は臣下としての道を尽くすこと。


【英語】
・Let the ruler be a ruler and the minister a minister.(君君たり臣臣たり)
「君君たり臣臣たり」の故事
「君君たり臣臣たり」は、中国の古典『論語(ろんご)』の「顔淵(がんえん)」に出てくる「君君、臣臣、父父、子子」という言葉にもとづく故事成語です。日本語では、その前半が一つの表現として定着しました。
『論語』は、中国の春秋時代に生きた孔子(前552年または前551年―前479年)と、その弟子たちの言行を伝える書物です。孔子の死後、弟子たちにつながる複数の学派によって長い年月をかけて編まれ、現在の形に整えられました。
この言葉が出てくるのは、斉(せい)の景公(けいこう)が、孔子に政治について尋ねた場面です。景公は、国をよく治めるには何が大切かを孔子に問いました。
孔子は、「君君、臣臣、父父、子子」と答えました。日本では、「君は君たり、臣は臣たり、父は父たり、子は子たり」と読み下します。
ここでは、同じ字が二つずつ重ねられています。最初の「君」は君主という地位を表し、次の「君」は君主としてふさわしく務めることを表すため、「君主は君主らしくあれ」という意味になります。
「臣臣」も同じ仕組みで、臣下は臣下としての道を尽くすことを表します。さらに「父父、子子」と続くため、政治だけでなく、家庭を含む社会の一人一人が、それぞれの役目を果たすことを求めた言葉です。
孔子の答えを聞いた景公は、「善い言葉だ」と感心しました。そして、君主が君主らしくなく、臣下が臣下らしくなく、父や子もそれぞれの務めを果たさなければ、たとえ穀物があっても、自分は安心して食べられないだろうと述べました。
食べ物があっても食べられないという言葉は、立場と行いが食い違えば、国や家庭の秩序が崩れ、暮らしの安全まで失われることを表します。それぞれが自分勝手に振る舞えば、物が豊かにあっても、社会は安定しないということです。
この教えは、臣下に服従だけを求めるものではありません。『論語』の「八佾(はちいつ)」には、君主は礼をもって臣下を使い、臣下は忠をもって君主に仕えるとあり、君主と臣下の双方に、ふさわしい行いを求めています。
また、この章は、『論語』「子路(しろ)」に出てくる「名を正す」という教えと結び付けて読まれてきました。「君主」「臣下」などの地位を示す名と実際の行動とを一致させなければ、言葉も政治も正しく働かなくなる、という考えです。
日本語では、もとの「君君、臣臣、父父、子子」から「君君たり臣臣たり」が取り出され、君主と臣下がそれぞれの本分を守ることを表す形として定着しました。「君君たり、臣臣たり」のように、読点を入れて書くこともあります。
古い用例には、『慕景集(ぼけいしゅう)』にある「君もきみ臣も臣てふ世にしあらばいかにきなかん鶯の声」があります。この歌は、1486年ごろの用例として伝わり、「君君、臣臣」という漢文の言葉を「君もきみ、臣も臣」として和歌の中に取り入れています。
『慕景集』は太田道灌の家集と伝えられてきましたが、父の太田道真の作とする説もあり、作者と成立年は明らかではありません。このため、作品そのものの来歴と、そこに収められた古い用例とは、分けて考える必要があります。
こうして「君君たり臣臣たり」は、地位の高い者が下の者に命令することだけを説くのではなく、上に立つ者も下で支える者も、まず自分の務めを果たすべきだ、という教えとして受け継がれました。役職の名にふさわしい責任を行動で示すことが、秩序と信頼を支えるという意味です。
「君君たり臣臣たり」の使い方




「君君たり臣臣たり」の例文
- 国王と大臣が双方の責任を果たす国こそ、君君たり臣臣たりの姿に近い。
- 社長が自ら規則を守り、社員も職務を尽くすのは、君君たり臣臣たりという考え方に通じる。
- 指導者が責任を避けて部下だけを責める態度は、君君たり臣臣たりに反する。
- 新しい会長は、君君たり臣臣たりを胸に、自分から難しい仕事を引き受けた。
- 歴史の授業で、君君たり臣臣たりが君主と臣下の双方に本分を求める言葉だと学んだ。
- 組織を立て直すには、君君たり臣臣たりの精神で、上司も部下も役目を果たす必要がある。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・Wm. Theodore de Bary and Irene Bloom, eds., 『Sources of Chinese Tradition, Second Edition, Volume 1』Columbia University Press,1999年.
・Robert Eno『The Analects of Confucius』Indiana University,2010年.
・『論語』戦国時代から前漢にかけて編纂。
・『慕景集』。























