【故事成語】
金谷の酒数
【読み方】
きんこくのしゅすう
【意味】
酒席の座興として、詩などを作れなかった罰に酒を飲ませること。また、その罰として飲ませる酒の杯数。


【類義語】
・罰杯(ばっぱい)
・罰酒(ばっしゅ)
「金谷の酒数」の故事
「金谷」は、中国の古都である洛陽(らくよう)の郊外にあった土地の名です。「酒数」は、酒を飲む杯の数を表します。「金谷の酒数」は、金谷で催された宴において、詩を作れなかった者に科された罰酒の数を指す言葉です。
この言葉のもとになった出来事は、中国の西晋(せいしん)王朝の元康六年、296年にありました。西晋の政治家で、富豪として知られた石崇は、洛陽の近くに金谷園(きんこくえん)という別荘を所有していました。
石崇自身が書いた『金谷詩序』には、別荘が金谷の谷あいにあり、高低のある地形に、清らかな泉や深い林が広がっていたとあります。さまざまな果樹、竹、柏、薬草のほか、水車や魚の泳ぐ池、洞窟まで備えた、目と心を楽しませる場所でした。
このころ、王詡という人物が長安へ帰ることになりました。石崇は、多くの人々とともに王詡を見送るため、金谷の別荘で送別の宴を開きました。
一同は昼も夜も宴を楽しみ、何度も場所を移しました。高い所へ登って下を眺めたり、水辺に並んで座ったりし、道中や宴席では、さまざまな楽器を奏でました。
やがて石崇は、宴に集まった人々に、それぞれの胸の内を詩に表すよう求めました。そして『金谷詩序』に、「遂に各おの詩を賦して、以て中懐を叙す。或いは能わざる者は、罰酒三斗」と記しました。詩を作れない者には、酒三斗を罰として飲ませたという意味です。
原文では、罰酒の量を「三斗」と書いています。日本語の故事の解説では、これを三杯の酒として伝えており、「酒数」は、このとき定められた罰杯の数を表します。
石崇は、人の命がいつまでも続くものではなく、いつ世を去るか分からないことを思い、宴に参加した人々の官職、姓名、年齢を書き残しました。さらに、一同の詩をその後に載せ、全部で三十人が集まったことも記しています。
そのため、この宴は単なる酒遊びではなく、友人との別れを惜しみ、限りある人生のひとときを詩に残そうとした集まりでもありました。その中で定められた「詩ができなければ罰酒を飲む」という約束が、後世に「金谷の酒数」として伝わりました。
現在の形に直接つながる「金谷酒数」という言い方は、唐の詩人である李白の『春夜宴桃李園序(しゅんやとうりのそのにえんするのじょ)』(唐、8世紀、李白作)の末尾に出てきます。この文章は、李白が春の夜に親族たちと花の咲く園へ集まり、酒を酌み交わしながら詩を作った宴を描いたものです。
李白は、その結びに「如し詩成らずんば、罰は金谷の酒数に依らん」と書きました。よい詩ができなければ、石崇の金谷園で行われた決まりにならい、罰として酒を飲むことにしよう、という意味です。
李白は、「金谷」という地名だけで、石崇の華やかな詩宴と罰酒の故事を読者に思い起こさせました。また、自分たちの桃李園の宴を、昔の金谷園の宴になぞらえています。
このように、石崇の『金谷詩序』にあった「詩が作れない者には酒三斗を罰とする」という記述が、李白の文章では「金谷酒数」という短い表現にまとめられました。それが日本では、「金谷の酒数」という訓読の形で受け継がれました。
日本の古い用例としては、森川許六編『本朝文選』(1706年・江戸時代中期)の、各務支考が書いた「宴柳後園序」に、「罰は金谷の酒もおしからむ」とあります。ここでは、「金谷の酒数」ではなく「金谷の酒」という形を用い、詩情のある言葉を述べられるならば、金谷園の故事にならって罰酒を飲むことも惜しくない、という趣を表しています。
こうして「金谷の酒数」は、もともと金谷園の詩宴で定められた罰酒の杯数を指し、のちには、酒席の座興として何かに失敗した者へ酒を飲ませることのたとえにもなりました。詩と酒をともに楽しんだ中国の文人たちの宴の習慣を、地名によって簡潔に表した故事成語です。
「金谷の酒数」の使い方




「金谷の酒数」の例文
- 詩会で即興の詩を作れなかった者には、金谷の酒数が科された。
- 李白は文章の結びに、詩が成らなければ金谷の酒数に従おうと記した。
- 宴の主人は、詩作に失敗した客へ金谷の酒数を命じた。
- この芝居は、文人たちが金谷の酒数をめぐって笑い合う場面から始まる。
- 古典の注釈を読み、金谷の酒数が罰杯の数を表すと分かった。
- 昔の物語では、宴に遅れた人物が金谷の酒数になぞらえて罰杯を受ける。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・石崇『金谷詩序』296年。
・李白『春夜宴従弟桃花園序』唐、8世紀。
・森川許六編『本朝文選』1706年。























