【ことわざ】
重き馬荷に上荷打つ
【読み方】
おもきうまににうわにうつ
【意味】
すでに大きな負担があるところへ、さらに負担が加わることのたとえ。


【英語】
・to add insult to injury(悪い状況をさらに悪くする)
【類義語】
・重荷に小付け(おもににこづけ)
・弱り目に祟り目(よわりめにたたりめ)
「重き馬荷に上荷打つ」の語源・由来
「重き馬荷に上荷打つ」のもとになった表現は、『万葉集(まんようしゅう)』(8世紀後半成立、奈良時代)巻五の897番にあります。『万葉集』は、7世紀前半から8世紀中頃までの歌を中心に、二十巻、四千五百余首を収めた現存最古の歌集です。
897番は、山上憶良が、年老いた身に病まで重なった苦しみと、残してはいけない子どもたちへの思いを詠んだ長歌です。題詞には、「老いたる身に病を重ね、年を経て辛苦み、及、児等を思へる歌七首」とあり、この歌を含む歌群の末尾には、天平5年(733年)6月3日に作ったとの注記があります。
その長歌には、「ますますも 重き馬荷に 表荷打つと いふことのごと」とあります。重い荷を背負った馬に、さらに上から荷を積み加えるようなものだ、という意味です。
「馬荷(うまに)」は、馬に背負わせた荷物のことです。「上荷(うわに)」は、すでに積んだ荷の上へさらに重ねる荷物を指し、「打つ」は、ここでは荷物を積み加えるという意味で使われています。
『万葉集』の本文では、「上荷」に当たる部分を「表荷」と書き、「うはに」と読んでいます。現在のことわざでは、意味の分かりやすい「上荷」という表記を用い、現代仮名遣いで「うわに」と読みますが、上に積み重ねる荷物を表す点は変わりません。
歌の中で憶良は、この世のつらさを、痛む傷へ辛い塩を注ぐことにたとえています。さらに、老いた自分の身に病気まで加わった苦しさを、重い馬荷に上荷を積むことに重ね、苦痛が次々に増していく様子を表しました。
この一節には、「重き馬荷に表荷打つ」だけでなく、「といふことのごと」と続いています。ここでの「言ふ」は、世間の人が口にするという意味をもち、憶良が、当時すでに知られていたたとえを歌に取り入れたものと読めます。
「馬荷」「上荷」、そして荷を積み加える意味の「打つ」がそろって出てくる最古級の文献例は、この『万葉集』の歌です。のちの『後撰和歌集(ごせんわかしゅう)』(951〜953年ごろ成立、平安時代中期)にも、重い荷の上へ小さな荷を添える「重荷に小付け」という、近い発想の表現が出てきます。
ただし、「重荷に小付け」が、直接このことわざから変化したとまではいえません。どちらも、限界に近い荷へさらに荷物を重ねる具体的な光景によって、人の苦労や負担がいっそう重くなることを表しています。
現在は、『万葉集』の「表荷」を「上荷」とした「重き馬荷に上荷打つ」という形で、すでに苦しんでいる人に、さらに別の負担が加わることを表します。古代の荷運びの光景から生まれた、苦労の重なりを目に浮かぶように伝えることわざです。
「重き馬荷に上荷打つ」の使い方




「重き馬荷に上荷打つ」の例文
- 入院費に加えて家の修理代まで必要になり、重き馬荷に上荷打つ状況となった。
- 多忙な職員に別の仕事まで任せるのは、重き馬荷に上荷打つようなものだ。
- 借金に苦しむ店へ高額な違約金まで課すとは、重き馬荷に上荷打つに等しい。
- 介護と育児を一人で担う彼女に新たな役目を押しつければ、重き馬荷に上荷打つことになる。
- 不作で収入が減った農家に資材費の値上がりが重なり、重き馬荷に上荷打つ苦境に陥った。
- 病気療養中の父へ家庭の問題まで任せるのは重き馬荷に上荷打つと考え、家族で分担することにした。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『万葉集』8世紀後半成立。























