【故事成語】
家貧しくして親老ゆれば禄を択ばずして仕う
【読み方】
いえまずしくしておやおゆればろくをえらばずしてつかう
【意味】
家が貧しく親が年老いているときは、俸禄の多少や仕事のよしあしを選ばずに仕えるべきだということ。転じて、暮らしが切迫しているときは、仕事を選んでいられないことのたとえ。


【英語】
・One cannot afford to be choosy when in need(困っているときは選り好みできない)
・Beggars can’t be choosers(苦しい立場ではえり好みできない)
・Any job is worth taking when one has a family to support(家族を養うためなら仕事を選んでいられない)
【類義語】
・背に腹はかえられぬ(せにはらはかえられぬ)
・窮猿投林(きゅうえんとうりん)
・窮余の一策(きゅうよのいっさく)
【対義語】
・君子は義に喩り、小人は利に喩る(くんしはぎにさとり、しょうじんはりにさとる)
・鶏口となるも牛後となるなかれ(けいこうとなるもぎゅうごとなるなかれ)
・清貧に甘んずる(せいひんにあまんずる)
「家貧しくして親老ゆれば禄を択ばずして仕う」の故事
この言葉は、孔子の弟子である子路(しろ)の孝行の話をもとに広まった故事成語です。今の形に近い文は『孔子家語(こうしけご)』に出てきますが、よく似た内容は前漢の『韓詩外伝(かんしがいでん)』や『説苑(ぜいえん)』にも伝わっています。
子路は、姓が仲(ちゅう)、名が由(ゆ)で、孔子の高弟として知られる人物です。まっすぐで勇ましい人柄で、古くから親に尽くした弟子の一人として語り継がれてきました。
『孔子家語』の話では、子路が孔子に会って、自分のこれまでをふり返って語ります。そこで出てくるのが、重い荷を負って遠くへ行く人は休む場所を選ばず、家が貧しく親が年老いている人は禄を選ばずに仕える、というたとえです。
ここでいう「禄」は、役目にともなって受ける俸禄、つまり生活のもとになる報いのことです。言葉どおりにたどると、家が苦しく、しかも親を養わなければならないときには、給料や地位のよしあしを選んでいる余裕はない、という意味になります。
子路は、親が生きていたころ、自分は藜藿(れいかく:あかざや豆の葉などの粗末な食べ物)を食べながら、親のためには百里の外から米を運んだと語っています。自分は質素に暮らしても、親には少しでもよいものを届けようとしたところに、この話の大事なところがあります。
ところが、親が亡くなったあと、子路は楚(そ)へ行き、多くの従者や車を従え、万鍾(ばんしょう:非常に多くの穀物)を積むほどの豊かな身分になります。茵(しとね)を重ねて座り、鼎(かなえ)を並べた食事をするほどの暮らしになっても、もう親のために米を運ぶことはできないと嘆くのです。
このため、この故事成語の重みは、ただ生活が苦しいから何でもよいというところにあるのではありません。親が年老い、家の苦しさが差し迫ったときには、まず親を支えることを優先する、という孝養の決意が芯になっています。
また、前漢の書物には「家貧親老、不擇官而仕」という近い形の言い方も伝わっています。つまり、この考え方は一つの本だけに閉じたものではなく、古くから、親を養うためには役目を選んでいられないという教えとして受け止められていたことが分かります。
現存する『孔子家語』は、後の時代に伝わった本として扱われることが多い書物です。けれども、この話そのものは、前漢の書物にも似た形で残っているため、子路の孝行を語る古い伝承に根ざした表現と考えるのが自然です。
日本でも、この話は「子路負米(しろふべい)」として早くから親しまれました。中世の『蒙求和歌(もうぎゅうわか)』にも取り入れられ、さらに後の時代には絵の題材にもなっており、孝行を教える話として広く受け入れられてきたことがうかがえます。
日本語の言い回しとしては、「親老いれば」とする形や、「仕ふ」と書く形もあります。けれども、どの形でもいちばん大事なのは、家が苦しく、親を養う責任が重いときには、条件を選んでいられないという意味です。
今では、必ずしも昔の仕官に限らず、就職や生活のための仕事を選べない事情を述べるときにも使えます。ただし、単に高い給料を求める場面ではなく、家族を支える必要に迫られている場面で使うのが、この故事成語にもっとも合った使い方です。
「家貧しくして親老ゆれば禄を択ばずして仕う」の使い方




「家貧しくして親老ゆれば禄を択ばずして仕う」の例文
- 進学を望んでいた兄が就職を選んだのは、家貧しくして親老ゆれば禄を択ばずして仕うという事情があったからだ。
- 年老いた母を養うために条件を選ばず働く彼の姿には、家貧しくして親老ゆれば禄を択ばずして仕うという言葉が重なる。
- 先生は、親を支えるために役目を選べない切実さを説明する場面で、家貧しくして親老ゆれば禄を択ばずして仕うという故事成語を取り上げた。
- 家業が傾き父母も高齢になったため、彼は家貧しくして親老ゆれば禄を択ばずして仕うとの思いで町工場に勤め始めた。
- 昔の人物伝を読むと、家貧しくして親老ゆれば禄を択ばずして仕うという覚悟で身を立てた例が少なくない。
- 生活に追われるだけの場面ではなく、家貧しくして親老ゆれば禄を択ばずして仕うという言葉は、老いた親を養う責任が重い場合にこそふさわしい。























