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【夷を以て夷を制す】の意味と使い方や例文!故事は?(類義語・対義語・英語)

夷を以て夷を制す

【故事成語】
夷を以て夷を制す

【読み方】
いをもっていをせいす

【意味】
外国や他国の力を利用して別の相手を抑え、自分は直接戦わずに利益や安全を得ること。転じて、他人の力を借りて自分の利益を得ること。

ことわざ博士
「夷を以て夷を制す」は、もとは周辺の異民族どうしを対抗させる考え方を表す言葉なんだよ。
助手ねこ
政治・外交・組織内の対立などで、相手どうしを利用して自分側を有利にする場面に用いるニャン。

【英語】
・play one off against another(一方をもう一方に対抗させて、自分の利益を得る)

【類義語】
・以夷攻夷(いいこうい)
・以毒制毒(いどくせいどく)
・毒を以て毒を制す(どくをもってどくをせいす)

【対義語】
・自力更生(じりきこうせい)
・独立独歩(どくりつどっぽ)

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「夷を以て夷を制す」の故事

故事成語を深掘り

この故事成語は、中国の歴史書『後漢書(ごかんじょ)』に関わる言葉です。『後漢書』は後漢の時代を扱う歴史書で、本紀と列伝は南朝宋の范曄(はんよう)がまとめたものです。

もとの形に近い表現は「以夷伐夷」で、「夷を以て夷を伐つ」という意味を持ちます。「夷」は、古い中国で周辺の異民族を低く見る呼び名として用いられた語で、現在の人や民族をそう呼ぶ言葉としては注意が必要です。

『後漢書』の列伝には、後漢の章和二年、護羌校尉の張紆が、降伏してきた羌(きょう)の迷吾らを殺したため、羌の諸部族が怒り、恨みを晴らそうとした話が出てきます。羌は、中国の北西部に住んだ民族として知られます。

朝廷は張紆に代えて鄧訓をその任に当て、乱れた西方の情勢を収めようとしました。羌の人々は互いの争いをやめ、婚姻や人質を通じて結束し、四万余りの勢力を集めて、川が凍る時期に攻めようとしました。

そのころ、塞の内側には小月氏(しょうげっし)の胡(こ)が分かれて住んでいました。小月氏は月氏の一部が甘粛・青海方面に残った勢力であり、胡は古い中国で北方・西方の異民族を指す語として用いられました。

小月氏の胡には、戦うことのできる騎兵が二、三千ほどいて、勇ましく、羌と戦うと少ない人数で多くの敵に勝つことがありました。漢に対して態度が定まらない面もありましたが、漢はその力を利用することもありました。

迷吾の子である迷唐は、羌の兵とともに塞の近くまで来ましたが、すぐには鄧訓を攻めず、先に小月氏の胡をおどかそうとしました。鄧訓は胡を守るように兵を出し、羌と胡が戦い合わないようにしました。

このとき周囲の人々は、羌と胡が互いに攻め合えば漢にとって利益になり、「以夷伐夷」となるので、守るべきではないと考えました。これは、外の勢力どうしを戦わせ、自分たちは手を下さずに有利になろうとする考え方です。

しかし鄧訓は、その考えを退けました。張紆の失信によって羌の反乱が大きくなり、兵を置く費用も重くなっていたため、胡が苦しんでいるときに恩を示して味方につけるほうがよい、と判断したのです。

鄧訓は城や園の門を開き、胡の妻子を中へ入れて守りました。羌は奪うものを得られず、胡にも近づけなくなり、ついに去りました。

その後、湟中の胡たちは、漢はいつも自分たちを争わせようとしてきたが、鄧訓は恩と信義で自分たちを扱った、と喜びました。鄧訓はその中の若く勇ましい者たち数百人を養い、義従として用いるようになりました。

つまり、原典の場面では「夷を利用して夷を討たせる」という考えが出てきますが、鄧訓自身はそれをただ実行した人物ではありません。むしろ、目先の利益だけを見て他者を争わせるのではなく、信頼を築いて安定を得る道を選んだ人物として描かれています。

後の時代になると、「以夷伐夷」「以夷攻夷」「以夷制夷」のような形で、他国の力を利用して別の他国を抑える意味が広がりました。日本語の「夷を以て夷を制す」は、この考えを訓読風に表した言い方として定着しています。

現在では、国どうしの外交だけでなく、組織や競争の場面にも比喩的に使われます。ただし、「夷」は古い時代の差別的な見方を含む語なので、現代の人や国を直接そう呼ぶためではなく、歴史的な故事成語として扱うのがふさわしい言葉です。

「夷を以て夷を制す」の使い方

健太
社会の授業で、ある国が自分では戦わず、隣り合う二つの勢力を対立させて力を弱めた話を読んだよ。
ともこ
それは、夷を以て夷を制すという考え方に近いね。自分の力だけで戦わず、相手どうしの対立を利用しているもの。
健太
でも、ただうまい作戦と言うだけだと、少し危ない感じもするね?
ともこ
うん!人を争わせて利益を得る考え方だから、歴史の言葉として意味をていねいに扱いたいね。
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「夷を以て夷を制す」の例文

例文
  • その国は、周辺国どうしの対立を利用して自国の安全を保とうとし、夷を以て夷を制す政策をとった。
  • 敵対する二つの勢力を互いに競わせる作戦は、まさに夷を以て夷を制すという発想に近い。
  • 彼は会議で反対派どうしの意見の違いを利用し、夷を以て夷を制すように自分の案を通した。
  • 夷を以て夷を制すという考え方は、直接戦わずに他者の力を利用する点に特徴がある。
  • 歴史の中には、強国が周辺勢力を争わせて支配を保つ、夷を以て夷を制す例が見られる。
  • 夷を以て夷を制すという言葉を使うときは、古い時代の差別的な呼び名を含むことにも気をつけたい。

主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館『デジタル大辞泉』小学館。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・范曄『後漢書』432年ごろ。
・Random House『Random House Learner’s Dictionary of American English』Random House、2026年。





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