【ことわざ】
親の恩は子を持って知る
【読み方】
おやのおんはこをもってしる
【意味】
自分が親となって子供を育ててみて、初めて、自分を育ててくれた親の苦労や愛情、ありがたさが身にしみて分かるということ。


【英語】
・We never know the love of a parent till we become parents ourselves(自分が親になるまで、親の愛は本当には分からない)
【類義語】
・子を持って知る親の恩(こをもってしるおやのおん)
・子を持たねば親の恩を知らず(こをもたねばおやのおんをしらず)
「親の恩は子を持って知る」の語源・由来
「親の恩は子を持って知る」は、「子を持って知る親の恩」ともいうことわざです。どちらも、自分が子供を育てる立場になって初めて、親が自分に注いでくれた愛情や、育てるために重ねた苦労の大きさを深く理解する、という意味です。
この考えに近い中国の古い言い回しは、明代初期の格言集『明心宝鑑(めいしんほうかん)』に出てきます。范立本編と伝わる『新刊大字明心宝鑑』には、1393年の序をもつ版本があり、後の1454年の跋を備えた本も伝わっています。
『明心宝鑑』には、「養子方知父母恩、立身方知人辛苦」とあります。「子を養って初めて父母の恩を知り、自分で世に立って初めて人の苦労を知る」という意味です。自分が同じ立場になり、その責任や苦労を身をもって経験してこそ、先にそれをしてくれた人の恩が分かると教えています。
この中国の言葉は、日本のことわざと意味の上でよく重なる先行表現です。一方、日本語として定着した形の古い用例は、江戸時代中期の人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)『奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)』(1762年、竹田和泉・近松半二・北窓後一・竹本三郎兵衛合作)にあります。
『奥州安達原』の三段目では、父母に背いて家を出た袖萩(そではぎ)が、目が見えなくなり、娘のお君に手を引かれて生家を訪れます。しかし、勘当された身であるため、父母に直接会うことができず、祭文(さいもん)に自分の境遇を託して、許しを請います。
その祭文の中に、「このお君とて、明けて漸う十一の、子を持って知る、親の恩」とあります。袖萩は、間もなく十一歳になるお君が、会ったこともない祖父母を慕う姿を見て、わが子を思う親の心を知り、自分の父母から受けた恩を改めて悟っています。
この場面での「知る」は、ただ知識として理解するという意味ではありません。自分も親となり、子供を守り育てる喜びや苦労を経験したことで、かつて自分を育ててくれた親の愛情を、胸にしみるほど深く悟ることを表しています。
古い用例では「子を持って知る親の恩」という語順ですが、現在は「親の恩は子を持って知る」と、知る対象である「親の恩」を先に掲げた形も使われます。語順は異なっても、親となって初めて親の恩を実感するという意味は同じです。
昭和15年(1940年)の竹久夢二の文章『砂がき』にも、「子を持って知る親の恩」が用いられています。夢二は、「恩」を「苦労」と置き換えて考えると、このことわざの意味がよく分かるという趣旨を述べています。このことから、親の愛情だけでなく、子供を育て上げるために重ねた苦労を悟る言葉として受け継がれてきたことが分かります。
「親の恩は子を持って知る」は、親の立場を経験することで、それまで当たり前に受け取っていた世話や愛情の重さに気づくことを表します。同じ責任を負い、同じ苦労を味わったとき、初めて他人の尽力を心から理解できるという、広い教えも含んだことわざです。
「親の恩は子を持って知る」の使い方




「親の恩は子を持って知る」の例文
- 彼は夜泣きする娘をあやしながら、親の恩は子を持って知るという言葉を実感した。
- 妹は母親になって初めて、親の恩は子を持って知るとはこのことかと、母の苦労に気づいた。
- 父は親の恩は子を持って知ると語り、祖父母への感謝を手紙にしたためた。
- 同窓会では、親の恩は子を持って知るという話に、子育て中の友人たちがうなずき合った。
- 親の恩は子を持って知るというが、彼女も息子の進学を支える中で、亡き母の献身を思い知った。
- 上司は親の恩は子を持って知るものだと、自分を育ててくれた両親への感謝を部下に語った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・范立本編『新刊大字明心宝鑑』1454年跋。
・竹田和泉・近松半二・北窓後一・竹本三郎兵衛『奥州安達原』1762年。
・竹本越路大夫記、髙木浩志談『四代越路大夫の表現―文楽鑑賞の手引き―』淡交社、2002年。
・Henry Ward Beecher, Proverbs from Plymouth Pulpit, D. Appleton and Company, 1887.























