【故事成語】
馬痩せて毛長し
【読み方】
うまやせてけながし
【意味】
貧しくなると、生活に追われて知恵や気力の働きが鈍くなることのたとえ。


【英語】
・A light purse makes a heavy heart(財布が軽いと心が重くなる)
【類義語】
・貧すれば鈍する(ひんすればどんする)
・人貧智短(じんぴんちたん)
・馬疲毛長(ばひもうちょう)
【対義語】
・貧にして楽しむ(ひんにしてたのしむ)
「馬痩せて毛長し」の故事
「馬痩せて毛長し」は、もとの漢語表現である「馬瘦毛長」に由来します。馬が痩せると、体の細さに対して毛だけが長く目立つように見えることから、困窮によって人の気力や知恵が弱ることをたとえます。
この表現の出典として知られるのは、『五灯会元(ごとうえげん)』(南宋、1252年成立、大川普済編)です。禅宗の系譜や禅僧の言葉を集めた書物で、いくつもの禅宗の記録をまとめた性格をもっています。
『五灯会元』巻第十九には、五祖法演(ごそほうえん)禅師の問答が出てきます。法演は中国・宋代の禅僧で、五祖山で宗風をふるったことから、五祖法演と呼ばれました。
その問答では、僧が「祖意教意、是同是別」と問いかけます。「祖意」は開祖の真意、おおもとの趣旨を指す言葉で、ここでは禅の根本の心と、教えとして説かれた内容との関係を問う形になっています。
この問いに対して、法演は「人貧智短,馬瘦毛長」と答えています。これは、「人は貧しければ知恵が短くなり、馬は痩せれば毛が長く見える」という意味に読み解けます。
禅の問答では、理屈を長く説明するかわりに、短いたとえで相手の考えを揺さぶることがあります。この句も、僧の問いに対して、日常の具体的な姿を用いて答えた短い言葉です。
もとの句では、「人貧智短」と「馬瘦毛長」が対になっています。人の生活が苦しくなると心や知恵の余裕が失われやすいことと、馬が痩せると毛ばかり長く目立つことを、並べて言い表しています。
後には、この後半の「馬瘦毛長」が独立して、貧しさや困窮によって元気や判断力が弱ることを表す言葉として用いられるようになりました。日本語では、漢語の形を訓読みして「馬痩せて毛長し」と言います。
「痩」は日本語の表記で、もとの中国語では「瘦」の字が使われます。どちらも、体が細く衰えることを表し、この故事成語では、栄養や余裕が足りない馬の姿をたとえの土台にしています。
この故事成語は、貧しい人を責めるための言葉としてではなく、生活の苦しさが人の心や判断にまで影響することを示す、古い戒めとして受け取ることが大切です。生活に追われると、人は落ち着いて考える余裕を失いやすいという意味で、現在の暮らしにも通じる表現です。
「馬痩せて毛長し」の使い方




「馬痩せて毛長し」の例文
- 生活費の心配ばかりで大事な連絡を忘れてしまい、馬痩せて毛長しという言葉を思い出した。
- 忙しさと金銭的な不安が重なり、冷静な判断ができなくなった彼の姿は、馬痩せて毛長しそのものだった。
- 父は、苦しい時ほど落ち着いて考えよ、馬痩せて毛長しになってはいけないと言った。
- 資金繰りに追われて仕事の質まで下がるとは、馬痩せて毛長しの状態だ。
- 友人は余裕のない暮らしが続き、馬痩せて毛長しのように表情まで沈んでいた。
- 馬痩せて毛長しというように、困窮が続くと心の余裕まで失われやすい。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・大川普済編『五灯会元』南宋、1252年成立。
・能仁晃道訓読『訓読 五灯会元 全三巻』禅文化研究所、2006年。
・孔子および弟子たち『論語』。























