【ことわざ】
学者と大木は俄にできぬ
【読み方】
がくしゃとたいぼくはにわかにできぬ
【意味】
深い学問を身に付けた人は、大木と同じように、長い年月と努力を重ねなければ育たないということ。


【英語】
・Rome wasn’t built in a day.(重要なことは短期間では成し遂げられない)
【類義語】
・楠学問(くすのきがくもん)
【対義語】
・梅木学問(うめのきがくもん)
「学者と大木は俄にできぬ」の語源・由来
「学者と大木は俄にできぬ」は、深い学識を備えた学者が育つまでの過程を、大きな樹木の成長に重ねたことわざです。大木が芽を出してから長い年月をかけて幹を太くし、枝葉を広げるように、学者も学習や研究を少しずつ積み重ねて大成するという見立てです。
ここでいう「学者」は、単に本を何冊か読んだ人ではありません。学問に優れた人、学問の研究を仕事とする人、または豊富な知識を備えた人を指します。「学者」という言葉は、『菅家文草(かんけぶんそう)』(900年ごろ・平安時代前期、菅原道真著)にも、学問に優れた人を表す言葉として出てきます。
「大木」は「たいぼく」と読み、大きく育った立木や巨樹を指します。この読みの古い用例は、『源平盛衰記(げんぺいせいすいき)』(14世紀前半ごろ成立・鎌倉時代後期)にあり、大きな木そのものを表す言葉として使われています。
「俄」は「にわか」と読み、物事が急に起こることや、短い間に急いでその状態になることを表します。そのため、「俄にできぬ」は、「急にはできない」「短期間では完成しない」という意味になります。
このことわざは、「学者」と「大木」という一見異なる二つのものを、「育つまで時間がかかる」という一点で結び付けています。「できぬ」は「できない」という意味の古風な言い方で、強く簡潔な調子によって、学問には近道がないことを言い切っています。
学問の成長を樹木にたとえる発想は、日本では、少なくとも江戸時代前期の文献に現れています。『わらんべ草(わらんべぐさ)』(1660年・江戸時代前期、大蔵虎明著)は、狂言の作法や演技の心得、芸道に向き合う姿勢などを、子孫のために書き記した書物です。
『わらんべ草』には、器用な者は自分の力を頼んで油断しやすい一方、不器用な者は自分を省みて励むため、やがて追い越すことがあるという趣旨の教えが記されています。そのあとに「梅の木、楠の木学文と云事思ふべし」とあり、学問の進み方を梅と楠の育ち方に重ねています。
この記述から生まれた「楠学問(くすのきがくもん)」は、楠の成長は遅くても着実に大木となることから、進歩は遅くても堅実に成長し、大成する学問を表します。すぐに結果が出なくても、根を張るように基礎を固める学び方をたたえた言葉です。
これと反対の「梅木学問(うめのきがくもん)」は、梅の木は初めの成長が速くても、結局は大木にならないという見立てから、にわか仕込みで不確実な学問を表します。早く知識を得たように思えても、土台が弱ければ、深い学識には結び付かないことを戒めています。
『わらんべ草』に出てくる「梅の木、楠の木学文」は、「学者と大木は俄にできぬ」と同一の文ではありません。しかし、樹木が長い時間をかけて育つ姿を、学問の修得や人の大成に重ねる考え方が、江戸時代前期から使われていたことを示しています。
今日伝わる形には、「学者と大木は俄かに出来ぬ」のように、「俄か」「出来ぬ」を漢字で書く表記もあります。ユーザーが示した「学者と大木は俄にできぬ」は、その内容を変えずに表記を整えた形です。
このことわざの「学者」は、学び始めた人ではなく、長年の研鑽(けんさん)を経て深い知識を身に付けた人を表します。その完成した姿を、長い年月を経て育った大木と並べることで、目先の速さよりも、学びを続ける時間と努力の大切さを説いています。
したがって、「学者と大木は俄にできぬ」は、進歩が遅いことを責める言葉ではありません。すぐに成果が現れなくても、毎日の読書、観察、思考、研究を重ねることが、やがて揺るぎない学識を育てると教えることわざです。
「学者と大木は俄にできぬ」の使い方




「学者と大木は俄にできぬ」の例文
- 学者と大木は俄にできぬという教えを胸に、彼は毎日欠かさず古文書を読み続けた。
- 難しい数学を数週間で極めようとする弟に、父は学者と大木は俄にできぬと諭した。
- 学者と大木は俄にできぬのだから、自由研究の結果がすぐに出なくても焦る必要はない。
- 新人研究員は、学者と大木は俄にできぬと心得て、基礎実験を一つずつ丁寧に重ねた。
- 学者と大木は俄にできぬという言葉どおり、専門知識は長年の読書と実践によって深まる。
- 祖父は学者と大木は俄にできぬを座右の銘とし、退職後も郷土史の研究を続けた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・大蔵虎明著、笹野堅校訂『わらんべ草』岩波書店、1962年。
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary.』























