【ことわざ】
犬骨折って鷹の餌食
【読み方】
いぬほねおってたかのえじき
【意味】
苦労して手に入れようとしたものや、ようやく得た成果を、他人に横から奪われることのたとえ。


【英語】
・One beats the bush, and another catches the bird.(一人が茂みをたたいて鳥を追い出し、別の人がその鳥を捕らえる)
【類義語】
・犬が追い出した鶉を鷹がとる(いぬがおいだしたうずらをたかがとる)
「犬骨折って鷹の餌食」の語源・由来
「犬骨折って鷹の餌食」は、鷹狩(たかがり)の場面から生まれたことわざです。鷹狩では、飼いならした鷹を使って鳥獣を捕らえますが、獲物を見つけたり追い立てたりする役は、勢子(せこ)や犬が担いました。鷹狩に用いる犬は鷹犬(たかいぬ)といい、犬と鷹が、同じ狩りの中で役割を分けて働く仕組みがありました。
このことわざのもとの姿では、犬が草むらなどにいる獲物を苦労して追い出し、最後に鷹がその獲物を取ります。犬は働いたのに獲物を得られず、成果は鷹のものになるため、そこから「苦労して得たものを他人に奪われる」という意味が生まれました。
古い形としては、「犬骨折って鷹にとられる」という言い方が、江戸時代初期の『尤草紙(もっとものそうし)』(1632年、斎藤徳元作)に出てきます。『尤草紙』は、『枕草子』にならって物尽くしの形で書かれた作品で、江戸時代前期の言い回しを伝える資料としても大切です。この段階ですでに、鷹狩の具体的な場面から、人間社会における苦労と横取りを表す言葉へと移っていました。
江戸時代前期には、皆虚編の『世話焼草(せわやきぐさ)』、別名『世話尽(せわづくし)』(1656年)にも、この系統の言い方が収められました。『世話尽』は、世間で使われる言い回しを集めた俳諧関係の書物として伝わっており、このことわざが、人々の生活感覚に合う言い方として受け入れられていたことが分かります。
さらに、明和7年の浄瑠璃(じょうるり)『源氏大草紙(げんじおおぞうし)』(1770年、福内鬼外作)には、「犬骨折て鷹の餌食」という形が出てきます。そこでは、相手が苦労して得たものを奪い、自分のところに隠し置くという文脈で用いられています。鷹狩のたとえが、人間どうしの争いや手柄の横取りを表す言い方として、舞台のせりふの中でも働いていたのです。
「犬骨(いぬぼね)」だけでも、むだな骨折りや徒労を表す言葉として使われるようになりました。『軍法富士見西行』(1745年)には、苦労したのに報われないことを「犬骨」と言う例が出てきます。このことから、もとの長いことわざから「犬骨」という短い形も生まれ、苦労がむだになるという意味を担うようになったことが分かります。
現在の「犬骨折って鷹の餌食」は、「犬骨折って鷹にとられる」「犬骨折って鷹の餌食になる」などの形と近く、表記や言い方に少し違いがあります。また、「犬骨」は古くは「いぬぼね」と読まれることも多く、今の見出し語では「いぬほねおってたかのえじき」と読む形も広く用いられます。どの形でも、意味の芯は、働いた人と利益を得る人が分かれてしまう不公平さにあります。
「犬骨折って鷹の餌食」の使い方




「犬骨折って鷹の餌食」の例文
- 彼が半年かけてまとめた資料を、同僚が自分の手柄として発表し、犬骨折って鷹の餌食となった。
- 弟が畑の草取りをしたのに、収穫したトマトは兄が先に売ってしまい、犬骨折って鷹の餌食のような結果になった。
- 委員会の企画を一から考えた生徒ではなく、最後に加わった生徒だけがほめられ、犬骨折って鷹の餌食という思いが残った。
- 祖父は、苦労して交渉を進めた商談を別の会社に奪われ、犬骨折って鷹の餌食だとこぼした。
- 研究の土台を作った人の名が消されるようでは、犬骨折って鷹の餌食になってしまう。
- 準備をした人の努力を正しく認めなければ、犬骨折って鷹の餌食のような不公平が起こる。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館、1984〜1994年。
・斎藤徳元『尤草紙』1632年。
・皆虚編『世話焼草(世話尽)』1656年。
・福内鬼外『源氏大草紙』1770年。
・Walter K. Kelly, Proverbs of All Nations, W. Kent & Co., 1859.























