【故事成語】
危うきこと朝露の如し
【読み方】
あやうきことちょうろのごとし
【意味】
人の生命・運命・地位などが、朝露のようにすぐ消えかねないほど、きわめて危険な状態にあること。


【英語】
・hang by a thread(命や状況が非常に危険な状態)
【類義語】
・危うきこと累卵の如し(あやうきことるいらんのごとし)
・命は風前の灯の如し(いのちはふうぜんのともしびのごとし)
【対義語】
・泰山の安きに置く(たいざんのやすきにおく)
「危うきこと朝露の如し」の故事
「危うきこと朝露の如し」は、中国の歴史書『史記(しき)』(前漢、司馬遷著)に出てくる「君之危若朝露」という言葉に基づく故事成語です。『史記』は、黄帝から前漢の武帝の時代までを扱う通史で、本紀・表・書・世家・列伝から成る紀伝体(きでんたい)の歴史書です。
もとの場面は、『史記』の「商君列伝」にあります。商君とは商鞅(しょうおう)のことで、戦国時代の秦に仕えた政治家です。商鞅は厳しい法を用いた改革を進め、秦を富強にしましたが、その強い政策は王族や貴族の恨みも集めました。
『史記』では、商鞅が秦の政治を十年行ったころ、宗室や貴族の中に多くの不満を持つ者がいたと記されています。そこへ趙良が商鞅に会い、商鞅の政治のあり方や身の振り方について、かなり厳しく忠告します。
趙良は、商鞅が民を思いやるよりも権力や厳罰に頼り、多くの恨みをためていることを指摘します。そして「君之危若朝露」と述べます。これは「あなたの危うさは朝露のようなものです」という意味で、朝日が昇ればすぐ消えてしまう露に、商鞅の命運のもろさを重ねた言い方です。
ここでいう「危うい」は、ただ心配だという程度ではありません。商鞅の権力は大きく見えても、秦の孝公が亡くなれば、彼を恨む人々が一気に動き出し、身を守れなくなるという切迫した危険を指しています。趙良は、領地を返して静かに暮らし、秦王に賢い人を用いさせ、老人や孤児をいたわる政治へ改めるよう勧めました。
しかし商鞅は、この忠告に従いませんでした。『史記』には、その五か月後に秦の孝公が亡くなり、太子が立つと、商鞅は謀反の疑いをかけられて追われ、ついには殺され、車裂きの刑に処せられたと記されています。趙良のたとえは、商鞅の未来を言い当てるような形になりました。
この故事から、「危うきこと朝露の如し」は、朝露のはかなさを借りて、命や運命、立場が非常に危険な状態にあることを表す言葉になりました。後には「危如朝露」という成語としても用いられ、「危険な状態が、朝露のように今にも消えそうである」という意味をもつ表現としてまとまりました。
「人生は朝露のごとし」は人生全体のはかなさを表しますが、「危うきこと朝露の如し」は、より切迫した危険に重点があります。朝露が美しいだけでなく、すぐ消えるものでもあるように、この故事成語は、見かけの勢いや地位があっても、支えを失えば一瞬で崩れる危うさを伝えています。
「危うきこと朝露の如し」の使い方




「危うきこと朝露の如し」の例文
- 大雨で山道の地盤がゆるみ、通行人の安全は危うきこと朝露の如しとなった。
- 手術前の祖父の容体は、危うきこと朝露の如しといえるほど不安定だった。
- 会社は資金繰りに行き詰まり、経営の先行きは危うきこと朝露の如しだった。
- 敵に囲まれた小さな城の兵たちは、危うきこと朝露の如しの状況に置かれていた。
- 証拠が次々に明らかになり、その政治家の立場は危うきこと朝露の如しとなった。
- 古い橋は土台まで傷んでおり、住民の命は危うきこと朝露の如しだった。
主な参考文献
・司馬遷『史記』前91年ごろ。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・小学館『日本大百科全書』小学館、1984〜1994年。
・Merriam-Webster『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster.























