【ことわざ】
石に灸
【読み方】
いしにきゅう
【意味】
いくら働きかけても、少しも効き目がないことのたとえ。石に灸をすえても何の効果もないことからいう。


【英語】
・fall on deaf ears(忠告や願いが聞き入れられない)
・like water off a duck’s back(批判や忠告が相手に少しもこたえない)
【類義語】
・石に針(いしにはり)
・蛙の面に水(かえるのつらにみず)
・土に灸(つちにきゅう)
・糠に釘(ぬかにくぎ)
・暖簾に腕押し(のれんにうでおし)
【対義語】
・効き目がある(ききめがある)
・手応えがある(てごたえがある)
「石に灸」の語源・由来
このことわざは、石に灸(きゅう)をすえても、石には痛みもこりもなく、何の変化も起こらないという発想から生まれた言い方です。灸は、もぐさを皮膚の特定の位置にすえ、その熱の刺激で治癒力をうながす療法を指します。
灸は本来、人の体に熱の刺激を与えるためのものです。ところが、石には体も感覚もないため、いくら灸をすえても反応しません。そこから、働きかけても効き目がないことを「石に灸」とたとえるようになりました。
「石に灸」は、中国古典の人物や事件から生まれた故事成語ではなく、日本語の生活感覚から成り立ったことわざとして扱うのが自然です。石という身近な硬いものと、昔から人々に知られていた灸を組み合わせ、むだな働きかけを分かりやすく表しています。
古い用例として、『江戸名所記(えどめいしょき)』(1662年・寛文2年・江戸時代前期、浅井了意作とされる)巻七に、この表現が出てきます。この書物は江戸の名所を述べた地誌で、全七巻として伝わっています。
その用例では、よい人の意見を聞いても、「蛙のおもてに水をそそぐ」ように、また「石に灸治をする」ように、跡形もなく打ち捨てるという趣旨で使われています。ここでは、人の忠告がまったく相手に残らない様子を、石に灸をすえることと重ねています。
この古い用例から分かるように、「石に灸」は、ただ努力が実らないというだけでなく、相手が忠告や意見を受け入れない場合にも用いられてきました。相手の心に届かず、少しも変化を生まないところに、このことわざの中心があります。
「石に針」という近い言い方もあります。針を石に刺そうとしても、石は痛みを感じず、針も役に立ちません。「石に灸」と「石に針」は、どちらも硬く反応しないものに働きかけるむなしさを表す言葉です。
また、「土に灸」や「泥に灸」も、灸をすえる行為をもとにした類似の表現です。ただし、「石に灸」は、石の硬さや無感覚さがはっきりしているため、いくら働きかけても効かないという印象が強く伝わります。
「蛙の面に水」もよく似た発想のことわざです。こちらは、蛙の顔に水をかけても平気でいる様子から、注意や非難を受けても少しもこたえないことを表します。
「石に灸」は、相手の反応のなさだけでなく、こちらの働きかけそのものがむだになる感じも含みます。忠告しても聞かない人、何度直しても変わらない仕組み、どれほど手を加えても改善しない状況などに用いると、意味がよく伝わります。
ただし、このことわざは相手を強く突き放す響きを持つことがあります。努力が足りない相手を責める場合だけでなく、方法が合っていないために効果が出ない場合にも使えるため、何が効いていないのかを見極めて用いることが大切です。
現在の使い方では、短い注意や一度の失敗にはやや強すぎる場合があります。何度も働きかけたのに少しも変化がない、または初めから効果が期待できないと分かる場面で使うと、このことわざらしい重みが出ます。
「石に灸」の使い方




「石に灸」の例文
- 何度注意しても弟は使った道具を片づけず、まるで石に灸だった。
- 会議で改善を求めたが、会社の方針は少しも変わらず、石に灸の結果となった。
- 友人に夜更かしをやめるよう忠告しても、本人にその気がなければ石に灸だ。
- 壊れた機械を何度たたいても直らず、そんな方法では石に灸にすぎない。
- 先生の厳しい言葉も、反省する気のない生徒には石に灸だった。
- 何度も案内を出したのに申し込みが増えず、宣伝の仕方が石に灸になっていた。
主な参考文献
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館。
・集英社『会話で使えることわざ辞典』集英社。
・浅井了意『江戸名所記』1662年。
・平凡社『世界大百科事典』平凡社。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』。






















