【ことわざ】
女は三界に家無し
【読み方】
おんなはさんがいにいえなし
【意味】
女性は、幼いときは親に、結婚後は夫に、年老いてからは子に従うものとされ、広い世界のどこにも自分の安住できる場所がないということ。


【類義語】
・女に三つの家なし(おんなにみつのいえなし)
「女は三界に家無し」の語源・由来
「三界(さんがい)」は、仏教で欲界(よっかい)・色界(しきかい)・無色界(むしきかい)という三つの世界を指す言葉です。人々が迷いながら生きる世界全体という意味から、「三界」は、広い世の中のすべてを表す言い方にもなりました。
仏教には、男女の別にかかわらず、迷いの世界には本当に安らげる場所がないという「三界に家なし」の考え方があります。唐代に普光が著した『倶舎論記(くしゃろんき)』には、七歳の蘇陀夷(そだい)が仏陀から家の場所を問われ、「三界無家」と答えたという話が伝わっています。これは、三界のどこにも永遠に安らげる家はないという意味です。
一方、「親・夫・子に従う」という部分は、「三従(さんじゅう)」という古い教えに重なります。中国古代の礼に関する書物『儀礼(ぎらい)』の「喪服」には、女性は、結婚前には父に、結婚後には夫に、夫が亡くなった後には子に従うという記述があります。
この三従の教えは、女性が自分だけの判断で生き方を決めるのではなく、生涯にわたって、家族の中の男性に従うべきだという考えを表していました。「女は三界に家無し」の「家」は、単なる建物ではなく、自分が主人となり、安心して暮らせる場所という意味をもっています。
現在の形より古い言い回しとして、「女に三つの家なし」があります。幸若舞曲(こうわかまいきょく)の『和田酒盛(わださかもり)』(作者・成立未詳、上演記録は1546年)には、「女に三つの家なしと、爰を仏のとき給ふ」とあります。ここでは、女性には、自分の家と呼べる場所が三つの段階のどこにもないという考えが、仏の教えとして語られています。
幸若舞は、室町時代に生まれた語り物の芸能です。『平家物語』『義経記』『曾我物語』などをもとにした物語を、節や簡単な舞を伴って語りました。そのように広く親しまれた物語の中に、「女に三つの家なし」という表現が入ったことで、女性の不安定な立場を表す言い方が伝えられていきました。
この古い形の「三つ」は、結婚前・結婚後・夫の死後という三つの段階を直接表しています。これに対して「三界」は、本来、仏教で世界全体を表す言葉です。「三つの家」と「三界」は、音や意味の上で結び付きやすく、仏教の「三界に家なし」という表現と、女性に三従を求めた考え方とが重なって、現在のことわざが形づくられたと考えられます。
現在と同じ「女は三界に家なし」という形の古い用例は、松葉軒東井が編んだ『譬喩尽(たとへづくし)』(1786年・江戸時代後期)にあります。『譬喩尽』は、ことわざや古い言い回しを集めた書物です。このころには、「三つの家」ではなく「三界」を用いる形が、ことわざとしてまとめられていたことが分かります。
また、「女に家なし」「女に定まる家なし」などの形も伝わっています。いずれも、女性は生まれた家にとどまらず、結婚すれば夫の家へ移り、年老いてからも子に従うため、自分の意思で安住する家を持ちにくいという、同じ考えを表します。
このように、「女は三界に家無し」は、仏教で世界全体を表す「三界」と、女性が父・夫・子に従うという「三従」の考え方が結び付いたことわざです。昔の女性が、家や生き方を自分で選びにくかった境遇を、広い世界のどこにも家がないという強い表現で言い表しています。
「女は三界に家無し」の使い方




「女は三界に家無し」の例文
- 昔の女性の暮らしを扱った授業で、女は三界に家無しということわざを学んだ。
- 女は三界に家無しという言葉には、女性が親や夫、子に従うものとされた時代の考え方が表れている。
- 娘を自分の家の都合だけで嫁がせる物語は、女は三界に家無しという境遇を描いている。
- 祖母は昔の家制度を振り返り、女は三界に家無しと言われた時代の苦労を語った。
- 女は三界に家無しということわざから、かつて女性が自分の生活を選びにくかったことが分かる。
- その小説は、女は三界に家無しという古い考えに苦しみながら、自分の生き方を求める女性を描いた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松葉軒東井編、宗政五十緒校訂『たとへづくし―譬喩尽』同朋舎、1979〜1981年。
・普光『倶舎論記』唐代。
・『儀礼』。
・作者不詳『和田酒盛』成立未詳。























