【ことわざ】
噂をすれば影がさす
【読み方】
うわさをすればかげがさす
【意味】
人の噂をしていると、不思議にその当人が姿を現すことのたとえ。


【英語】
・Talk of the devil, and he is sure to appear.(悪魔のことを話すと、必ず姿を現す)
【類義語】
・呼ぶより謗れ(よぶよりそしれ)
・謗れば影さす(そしればかげさす)
・人事言えば影がさす(ひとごといえばかげがさす)
・噂を言わば筵を敷け(うわさをいわばむしろをしけ)
「噂をすれば影がさす」の語源・由来
「噂をすれば影がさす」は、「そこにいない人を話題にしていると、その人が現れる」という、人々の生活の中でよく経験される偶然をもとにしたことわざです。「噂」は、物事や人の身の上について、かげで話をすること、またその話を意味します。
このことわざの「影」は、人影をさします。「影がさす」は、人の姿や影法師がちらりと見える、またそこに現れるという意味で、「噂をすれば影がさす」では、話題にしていた本人の姿がその場に現れることを表しています。
古い形としては、「噂をすれば影」や「噂をすれば影がさす」のほか、「噂を言えば影」「人事言わば筵敷け」など、近い言い方が伝わっています。「人事言わば筵敷け」は、人の噂をすれば当人が現れるものだから、その席を用意しておくくらいの気持ちで噂をするがよい、という意味の言い方です。
ことわざ集として重要な『譬喩尽(たとえづくし)』(1786年・江戸時代後期、松葉軒東井編)には、この言い方が収められています。『譬喩尽』は、ことわざや慣用句の類を集め、いろは分けに編集した八巻八冊の書物で、十八世紀後半の言語文化を知る資料として用いられています。
実際の会話の中で使われた古い用例としては、滑稽本(こっけいぼん)『浮世床(うきよどこ)』(1811〜1823年・江戸時代後期、式亭三馬編、三編は滝亭鯉丈編)に、「ヲイヲイ噂をすれば蔭がさすだ。銭右衛門さん所の飛助が来た」とあります。これは、飛助という人物の話をしているところへ、ちょうど本人が来た場面で使われています。
『浮世床』は、江戸の髪結床(かみゆいどこ)を舞台に、町人たちの会話や日常を描いた作品です。髪結床は、髪を結ったり髭を剃ったりするだけでなく、人々が集まって世間話をする場でもありました。そのような場面で「噂をすれば蔭がさす」という言い方が出てくることから、このことわざが、かしこまった文章だけでなく、ふだんの会話に近い言葉として使われていたことが分かります。
表記については、古い用例では「影」ではなく「蔭」と書かれることもあります。ただし、中心となる意味は同じで、話題にしていた人の姿がふと現れることを表します。現代では「噂をすれば影がさす」と書くほか、会話では最後まで言わずに「噂をすれば影」や「噂をすれば何とやら」と言いとどめることもあります。
このことわざには、単なる偶然を面白がるだけでなく、目の前にいない人のことをあれこれ言うと、言葉に不思議な力が働いて本人を呼び寄せるように思われた、という古い感覚も重なっています。同じ発想は、英語の “Talk of the devil, and he is sure to appear.” や、中国語の「説曹操、曹操就到」にも通じ、離れた言語にも似た考え方があることが分かります。
近代以降にも、このことわざは文学や脚本の中で使われています。夏目漱石『吾輩は猫である』(1905〜1906年)には、迷亭の悪口を聞いていると本人が入ってくる場面で「噂をすれば陰の喩に洩れず」とあり、橋田壽賀子『となりの芝生』(1976年)にも、話題にしていた人物が来たところで「噂をすれば影って本当ね」と言う場面があります。
このように、「噂をすれば影がさす」は、江戸時代にはすでにことわざとして整い、日常会話の中で自然に用いられていました。現在でも、だれかの話をしていたちょうどその時に本人が現れた場面を、少し驚きや気まずさをこめて言い表すことわざとして定着しています。
「噂をすれば影がさす」の使い方




「噂をすれば影がさす」の例文
- 噂をすれば影がさすで、転校した友人の話をしていたら、本人から電話がかかってきた。
- 先生の話をしていたところへ本人が職員室から出てきて、噂をすれば影がさすとはこのことだと思った。
- 昼休みに兄の部活動の話題を出した直後、校門に兄の姿が見え、噂をすれば影がさすとなった。
- 噂をすれば影がさすで、町内会で欠席者のことを話していたら、その人が会場に入ってきた。
- 母と祖母の近況を話している最中に祖母が訪ねてきて、噂をすれば影がさすに家族で驚いた。
- 会議で担当者の名前が出たとたん本人が資料を持って現れ、噂をすれば影がさすという雰囲気になった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松葉軒東井編『譬喩尽』1786年。
・式亭三馬編、滝亭鯉丈編『柳髪新話浮世床』1811〜1823年。
・夏目漱石『吾輩は猫である』1905〜1906年。
・橋田壽賀子『となりの芝生』1976年。























