【ことわざ】
蟻の塔を組む如し
【読み方】
ありのとうをくむごとし
【意味】
少しずつ怠らずに努力や成果を積み重ね、大きな仕事を成し遂げることのたとえ。


【英語】
・Rome wasn’t built in a day(大きな仕事は短い時間では完成しない)
【類義語】
・塵も積もれば山となる(ちりもつもればやまとなる)
・雨垂れ石を穿つ(あまだれいしをうがつ)
・鶴の粟を拾う如し(つるのあわをひろうごとし)
「蟻の塔を組む如し」の語源・由来
「蟻の塔を組む如し」の「蟻の塔」は、今の言葉でいう蟻塚のことです。蟻が地中から土を運び出して小山を作ったり、土や落葉を練り固めて塚のような巣を作ったりする姿が、このことわざの具体的な背景にあります。小さな一匹の力は目立たなくても、少しずつ積み上げれば形あるものになるという見立てが、言葉の土台になっています。
古い形は、俳諧の書『毛吹草(けふきぐさ)』(1638年・江戸時代前期、松江重頼編)に見えます。この書は七巻五冊の俳諧書で、寛永十五年序とされます。巻二には「ありのたうをくむことし つるのあはをひろふことし」とあり、「蟻が塔を組むように、鶴が粟を拾うように」という二つの小さな積み重ねの姿が並べられています。
ここで大切なのは、「塔」が立派な建物そのものではなく、蟻の作る塚を指している点です。「組む」は、ものを組み上げる、または積み上げるという意味で働き、古い形では「組む」と「積む」が近い関係で扱われています。小さな粒や土を一つずつ重ねる具体的な動作から、少しずつ功を積むという意味へ広がっていきました。
同じ発想は、近い表現にも続いています。「鶴の粟を拾う如し」は、ごく少量ずつであることのたとえで、『毛吹草』にも見える言い方です。蟻の塔と鶴の粟は、どちらも一度に大きなものを得るのではなく、細かなものを少しずつ重ねる姿を表します。
さらに、仮名草子『東海道名所記(とうかいどうめいしょき)』(1659〜1661年ごろ成立、浅井了意作)には、「すこしづつうけたるもの、鶴の粟(アワ)、蟻の塔」という用例があります。この段階では、「鶴の粟」と「蟻の塔」が、少しずつ受けたり集めたりすることを表すまとまった言い方として使われています。
後には、「蟻が塔を組む」という形も広まりました。近松門左衛門作の浄瑠璃『双生隅田川(ふたごすみだがわ)』(享保5年・1720年初演)にも、この系統の表現が関わります。そこでは、力の小さいものでも協力し、少しずつ怠らずに努めれば大きな仕事を成し遂げられる、という理解が示されています。
このように、「蟻の塔を組む如し」は、蟻塚という身近な自然の姿から生まれ、近世の俳諧や仮名草子、浄瑠璃などの中で形を保ちながら伝わったことわざです。現在の意味も、そこから大きく離れていません。小さな努力を軽んじず、少しずつ積み重ねて大きな成果へ近づくことを、蟻の営みによって分かりやすく表しています。
「蟻の塔を組む如し」の使い方




「蟻の塔を組む如し」の例文
- 毎日一ページずつ読書記録を書き続けた努力は、蟻の塔を組む如しで、学年末には厚いノートになった。
- 地域の人たちが少しずつ寄付を重ね、蟻の塔を組む如しの取り組みで新しい図書室が整った。
- 新人のころから地道に技術を磨いた彼の仕事ぶりは、まさに蟻の塔を組む如しだった。
- 家族で毎週少しずつ片づけを進め、蟻の塔を組む如しで物置を使いやすい部屋に変えた。
- 小さな改善を毎月続けた工場は、蟻の塔を組む如しで大きな事故を防ぐ仕組みを作り上げた。
- 一日十分の練習でも怠らなかった合唱部は、蟻の塔を組む如しの努力で美しい合唱を完成させた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・松江重頼編、新村出校閲・竹内若校訂『毛吹草』岩波書店、1943年。
・浅井了意『東海道名所記』1659〜1661年ごろ。
・近松門左衛門『双生隅田川』1720年初演。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』Oxford University Press.























