【ことわざ】
江戸っ子の往き大名帰り乞食
【読み方】
えどっこのゆきだいみょうかえりこじき
【意味】
江戸っ子が旅の行きに大名のように豪勢に金を使い、帰りには金を使い果たしてみじめな状態になること。無計画に金を使うことへの戒め。


【英語】
・spend money like water(湯水のように金を使う)
【類義語】
・往き大名の帰り乞食(ゆきだいみょうのかえりこじき)
・行き大名の帰り乞食(ゆきだいみょうのかえりこじき)
・上り大名下り乞食(のぼりだいみょうくだりこじき)
【対義語】
・入るを量りて出ずるを為す(いるをはかりていずるをなす)
「江戸っ子の往き大名帰り乞食」の語源・由来
「江戸っ子の往き大名帰り乞食」は、「往き大名の帰り乞食」ということわざに、江戸っ子の気質を重ねた形の言い方です。「往き大名の帰り乞食」は、旅の初めに大名のように豪勢に金を使い、帰りには金がなくなって、みじめな思いをすることを表します。
ここでいう「江戸っ子」は、江戸で生まれ育った人を指すだけでなく、粋で勇み肌、さっぱりとして金銭への執着が少ないという気風をともなう言葉として用いられてきました。見栄を張る、意地を張るといった面も、江戸っ子像の一部として語られます。
「大名」は、江戸時代には一万石以上の領地をもつ領主を指し、将軍に直接仕える武士身分の上層にあたる存在でした。そのため、このことわざの「大名」は、実際の身分をいうのではなく、金を惜しまず豪勢にふるまう姿のたとえです。
「乞食」は、食物や金銭を人から恵んでもらって生活すること、またはその人を指す古い言い方です。このことわざでは、人をそのまま指す語としてではなく、旅費を失って非常にみじめな状態になることを強く表す比喩として使われています。
「往き」は旅の行き道、「帰り」は戻る道を表します。ことわざの形としては、「往き大名の帰り乞食」「行き大名の帰り乞食」のような言い方もあります。いずれも、前半と後半を対照させ、初めの派手さと後の困窮をはっきり見せる作りになっています。
この言葉の背景には、旅にはまとまった金が必要であり、道中では宿代、飲食代、遊興費、思わぬ出費などが重なりやすいという事情があります。旅の初めは懐に余裕があるため気前よく使っても、帰り道には手持ちが尽きて苦しくなることがありました。
「江戸っ子の」を添えた形では、単なる旅費の失敗だけでなく、金をため込むよりも気前よく使うことをよしとする江戸っ子気質が前に出ます。ほめ言葉だけではなく、後先を考えない金の使い方への戒めも含むところに、このことわざの味わいがあります。
近代の用例として、林不忘『口笛を吹く武士』(1932年、林不忘著)には、「行き大名のけえり乞食が、江戸っ児の相場だ?」というせりふが出てきます。お伊勢詣りの帰りと見える二人連れが、道中で金を使いすぎ、品川へ入るまで水だけで歩けるのかと責められる場面です。
この用例では、「けえり」「江戸っ児」のような江戸風の言い回しが使われ、ことわざが江戸っ子らしい口調と結びついて表れています。旅の途中で金を使い果たすことを、ただの失敗ではなく、「江戸っ児の相場」と言って強がるところに、見栄と気前のよさが重なっています。
また、「上り大名下り乞食」という形もあり、旅の始めに派手にやりすぎて、帰りには文無しでみすぼらしくなることを表します。方向を表す言葉は違っても、行きと帰り、豪勢さと貧しさを対比して、無計画な出費を戒める点は同じです。
現在では、江戸っ子そのものを指す場合に限らず、旅行、買い物、遊び、行事の準備などで、最初に勢いよく金を使いすぎ、あとで困る場面に広く使えます。明るい気前よさを含みながらも、計画を立てずに使えば苦しくなるという教訓を伝えることわざです。
「江戸っ子の往き大名帰り乞食」の使い方




「江戸っ子の往き大名帰り乞食」の例文
- 旅行の初日に土産を買いすぎ、江戸っ子の往き大名帰り乞食のように帰りの食費まで心配することになった。
- 給料日に派手に遊んで月末に困るのは、江戸っ子の往き大名帰り乞食そのものだ。
- 文化祭の買い出しで高い飾りばかり買い、江戸っ子の往き大名帰り乞食にならないよう予算を分けた。
- 祖父は旅先で気前よくふるまいすぎる父を見て、江戸っ子の往き大名帰り乞食にならぬよう注意した。
- 最初の店で全額を使えば、江戸っ子の往き大名帰り乞食で、あとから必要な物が買えなくなる。
- 江戸っ子の往き大名帰り乞食という言葉は、気前のよさだけでなく、計画性の大切さも教えている。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・林不忘『口笛を吹く武士』1932年。























