【故事成語】
河漢の言
【読み方】
かかんのげん
【意味】
漠然として取り留めもない言葉。大げさで現実から離れた言葉や、根拠の乏しい話をいう。


【英語】
・wild talk.(とりとめのない、乱れた言葉)
・absurd talk.(ばかげた話、道理に合わない話)
【類義語】
・荒唐無稽(こうとうむけい)
・大言壮語(たいげんそうご)
・空言(そらごと)
【対義語】
・筋が通る(すじがとおる)
・的を射る(まとをいる)
「河漢の言」の故事
「河漢の言」は、中国古典『荘子(そうじ)』「逍遙遊(しょうようゆう)」に出てくる「猶河漢而無極也」という言葉にもとづく故事成語です。『荘子』は、中国・戦国時代の思想家である荘周(そうしゅう)と、その後学の思想を伝える書物で、現行本は内篇七篇・外篇十五篇・雑篇十一篇の三十三篇から成ります。
「河漢」は、天の川、銀河を表す言葉です。また、黄河と漢水を指す意味もありますが、「河漢の言」のもとになった『荘子』の一節では、遠い空に果てしなく広がる天の川のたとえとして働いています。
「逍遙遊」は、『荘子』の最初に置かれた篇です。大きな魚が大きな鳥に変わる話など、ふつうの物差しを超えた大きな存在を語りながら、人間の狭い見方を離れることを示していきます。
「河漢の言」に関わる場面では、肩吾(けんご)が連叔(れんしゅく)に、接輿(せつよ)から聞いた話について語ります。肩吾は、その話を「大而無當,往而不返」と表し、大きすぎて当てはまるところがなく、どこまでも行って戻ってこないような言葉だと受け止めています。
続いて肩吾は、「吾驚怖其言,猶河漢而無極也;大有徑庭,不近人情焉」と述べます。これは、その言葉に驚き恐れ、それが天の川のように果てしなく、ふつうの人情や常識から大きく離れている、という意味です。
肩吾が驚いた接輿の話は、藐姑射(はこや)の山に住む神人についてのものでした。その神人は、肌が氷雪のように白く、五穀を食べず、風を吸い露を飲み、雲気に乗り、飛竜を御して四海の外を遊ぶと語られています。
この話は、日常の経験だけで考えると、まことに現実離れしています。そのため肩吾は、接輿の言葉を、天の川のように広大で果てがなく、人の世の常識から遠く離れたものとして受け取ったのです。
しかし、『荘子』の文脈では、肩吾の受け止め方だけが正しいとは限りません。連叔は、目の見えない人に文様の美しさを語れず、耳の聞こえない人に鐘や太鼓の音を語れないように、知にもまた見えないところや聞こえないところがある、と返しています。
つまり、原典の場面では、「河漢のように果てしない言葉」は、ただの虚言というだけではありません。小さな常識では受け止めきれないほど大きな言葉、ふつうの物差しを超えた思想を指す働きももっています。
そこから後に、「河漢」は、言葉が大きすぎて現実に合わないこと、空疎でつかみどころのないことのたとえにもなりました。中国語の語義としても、「大而無當」で、空疎な言葉、実際に合わない言葉をたとえる意味が伝わっています。
日本語では、「河漢の言」の形で、漠然として取り留めもない言葉、大げさで現実から離れた言葉を表すようになりました。「河漢之言」と書く形もあり、いずれも『荘子』「逍遙遊」の言葉を背景にしています。
この故事成語の大切な点は、話が大きいことそのものではなく、聞く人にとって現実の筋道が見えにくいほど、広く遠く、つかみどころがないという点にあります。そのため、根拠の薄い大げさな話や、まとまりを欠いた言葉を批判的に述べる場面で使われます。
「河漢の言」の使い方




「河漢の言」の例文
- 会議で出た計画は規模ばかり大きく、費用も人員も示されていないため、河漢の言に近かった。
- 彼の話は世界中の問題を一週間で解決するというもので、聞き手には河漢の言と受け取られた。
- 根拠のない成功談を並べるだけでは、どれほど勢いがあっても河漢の言にすぎない。
- 研究発表では、河漢の言にならないように、主張を支える資料と手順を明確にした。
- 社長の新方針は理想だけが高く、実行方法がないため、社員の多くは河漢の言だと感じた。
- 友人の夢を笑うつもりはないが、具体的な準備を欠いたままでは河漢の言になってしまう。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・飯間浩明編『四字熟語を知る辞典』小学館、2018年。
・日本漢字能力検定協会『漢字ペディア』。
・『荘子』。
・Cambridge University Press, Cambridge Dictionary.
・HarperCollins, Collins English Dictionary.























