【ことわざ】
今日の一針明日の十針
【読み方】
きょうのひとはりあすのとはり
【意味】
小さな問題でも処置を先延ばしにすると、あとで何倍もの手間や負担がかかることのたとえ。


【英語】
・A stitch in time saves nine.(適切な時の一針は、あとの九針を省く)
【類義語】
・時を得た一針は九針の手間を省く(ときをえたいっしんはきゅうしんのてまをはぶく)
「今日の一針明日の十針」の語源・由来
「今日の一針明日の十針」のもとにあるのは、布の小さなほころびを、早いうちに縫い留める場面です。糸が少しゆるんだ段階なら一針で直せますが、そのまま着たり洗ったりすれば、裂け目が広がり、翌日には何針も縫わなければならなくなります。「一」と「十」の大きな差によって、わずかな手間を惜しむと、あとで負担が何倍にも増えることを印象深く表しています。
このことわざは、英語の“A stitch in time saves nine.”に対応しています。英語では、「間に合う時に縫う一針が、あとの九針を省く」という形で、問題が小さいうちに手を打つことの大切さを表します。一針を今縫えば九針を省けるため、放置した場合に必要となる全体は十針です。日本語では、この関係を「今日の一針」と「明日の十針」に置き換え、時間と手間の差が一読して伝わる形にしています。
この英語の言い方は、Thomas Fullerがまとめた『Gnomologia』(1732年、ロンドン刊)に、“A Stitch in Time / May save nine.”という形で出てきます。現在広く使われている形とは異なり、“may”が入り、「時を逃さない一針は、九針を省くかもしれない」という、やや控えめな表現になっています。
フラーは同書の前書きで、音の響きがよく、短く整った言い方は記憶に残りやすいと述べ、この句を例に挙げています。“time”と“nine”の語尾が響き合うため、教えの内容だけでなく、音の調子によっても覚えやすく、ことわざとして伝わりやすい形でした。
Francis Bailyの『Journal of a Tour in Unsettled Parts of North America in 1796 & 1797』(1856年刊)には、“A stitch in time saves nine.”という現在と同じ形が出てきます。そこでは、川を進む舟が流れから外れ始めるたびに、すぐに向きを直す場面で、このことわざが使われています。この段階では、すでに縫い物の話だけでなく、「ずれや誤りが小さいうちに正す」という広い教えを表していました。
日本語の「今日の一針明日の十針」は、英語の「九針を省く」という結果を、「今日なら一針、明日なら十針」という対比に組み替えた表現です。英語では、早めの一針によって省ける手間を述べ、日本語では、先延ばしによって増えてしまう手間を述べています。言い方は異なりますが、どちらも、小さな問題を放っておけば、あとで大きな負担になることを戒めています。
ベンジャミン・フランクリンの言葉として紹介されることもありますが、1732年の『Gnomologia』には、すでに広く用いられていた短い言い方の一つとして収められています。そのため、特定の一人が作った表現とするよりも、18世紀の英語圏で使われていたことわざが、日本語に取り入れられたとみるのが穏当です。
現在では、衣服の修理に限らず、学習のつまずき、設備の故障、仕事上の誤り、人との行き違いなどにも広く使われます。単に「今日できることを今日行う」というだけでなく、小さな問題を早く処置すれば、将来の大きな手間や損失を防げるという点が、このことわざの大切な意味です。
「今日の一針明日の十針」の使い方




「今日の一針明日の十針」の例文
- 制服の袖のほつれをすぐに縫い、今日の一針明日の十針を実行した。
- 算数で分からないところをその日のうちに質問するのは、今日の一針明日の十針という考え方にかなう。
- 家族は雨どいの小さなひびを早めに直し、今日の一針明日の十針で大きな水漏れを防いだ。
- 友人との小さな行き違いを放置せず話し合ったのは、今日の一針明日の十針を重んじたからだ。
- 町内会は遊具の緩んだねじをすぐに交換し、今日の一針明日の十針の教えを安全管理に生かした。
- 会社は利用者から届いた初期の不具合報告に対応し、今日の一針明日の十針で損害の拡大を防いだ。
主な参考文献
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・Thomas Fuller『Gnomologia: Adagies and Proverbs; Wise Sentences and Witty Sayings, Ancient and Modern, Foreign and British』B. Barker,1732.
・Francis Baily『Journal of a Tour in Unsettled Parts of North America in 1796 & 1797』Baily Brothers,1856.
・Pearson Education『Longman Dictionary of Contemporary English.』
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary.』























