【慣用句】
窮余の一策
【読み方】
きゅうよのいっさく
【意味】
追い詰められて困り果てた末に、苦しまぎれに思いついた一つの手段。


【英語】
・a last-ditch measure.(追い詰められた末に取る最後の手段)
・one’s last resort.(最後に頼る手段)
【類義語】
・苦肉の策(くにくのさく)
・窮策(きゅうさく)
「窮余の一策」の語源・由来
「窮余の一策」は、「窮余」と「一策」を「の」で結んだ表現です。「窮余」は、追い詰められて困りきったあげくや、苦しまぎれの状態を表します。「一策」は、一つの計画・はかりごと・手段という意味です。したがって、言葉の組み立てそのものが、「困り果てた末に考え出した一つの手段」という現在の意味を表しています。
「一策」は、明治時代前期の翻訳小説『花柳春話(かりゅうしゅんわ)』(1878〜1879年、織田純一郎訳)に、「宜しく一策を運らして」という形で出てきます。この段階ですでに、一つの計画や手段を表す言葉として、日本語で用いられていました。
一方、「窮余」を含む古い用例には、『雑嚢(ざつのう)』(1914年・大正時代、桜井忠温著)の「白、ルを侵すは窮余(キウヨ)の策にあらずして、予定の計画を実行したに過ぎぬ」があります。「白」はベルギー、「ル」はルクセンブルクの略で、両国への侵攻は、追い詰められた末の策ではなく、あらかじめ定めた計画だったと述べた文です。ここでは、現在の形よりも短い「窮余の策」が、苦しまぎれの手段という意味で使われています。
現在と同じ「窮余の一策」という形の古い用例は、芥川龍之介の小説『偸盗(ちゅうとう)』(1917年・大正時代)に出てきます。この作品は、同年四月と七月の『中央公論』に発表されました。
物語の中で、次郎は三頭の狩犬に取り囲まれ、太刀を振るっても逃げ道を開けない状態に陥ります。そこで、「もうかうなっては、唯、窮余(キュウヨ)の一策(イッサク)しか残ってゐない」と語られ、次郎は犬の背を飛び越えて走り去ろうとします。成功の見込みはわずかでも、ほかに方法が残っていないために試みる行動が、「窮余の一策」と表されています。
この用例の「一策」には、数ある方法の中から選んだ一案というよりも、追い詰められた末に、ようやく残った一つの方法という重みがあります。そのため、この慣用句は、策の優秀さよりも、それを考え出さなければならなかった切迫した状況に重点を置く表現として定着しました。
昭和時代には、文学作品の中だけでなく、政治や経済の判断を述べる場面でも使われています。1953年の国会では、不足する財源を公債に求める案について、「窮余の一策」という表現が用いられました。このように、命に関わる危機から、仕事や政策上の行き詰まりまで、ほかに手段のない幅広い場面を表す言い方となりました。
現在は「窮余の一策」という形が一般的ですが、「の」を書かず、「窮余一策」と表すこともあります。いずれも、追い詰められた末に考え出した一つの手段という意味であり、その策が必ず成功することまでを表す言葉ではありません。
「窮余の一策」の使い方




「窮余の一策」の例文
- 山で道に迷い、携帯電話も通じなかったため、窮余の一策として笛を吹き続けた。
- 試合終了間際、監督は守備の選手を前線に上げる窮余の一策に出た。
- 原稿を失った講演者は、手元の写真だけで話すことを窮余の一策とした。
- 資金繰りに行き詰まった会社は、遊休地を売る窮余の一策を講じた。
- 停電で機械が止まり、職人たちは手作業で仕上げる窮余の一策を選んだ。
- 逃げ道を断たれた一行は、川を渡る窮余の一策に望みをかけた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・集英社辞典編集部編『ルーツでなるほど慣用句辞典』集英社、1991年。
・近藤いね子・高野フミ編『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・桜井忠温『雑嚢』丁未出版社、1914年。
・芥川龍之介『偸盗』1917年。























