【ことわざ】
立つ鳥跡を濁さず
【読み方】
たつとりあとをにごさず
【意味】
立ち去る者は、自分がいた場所や関係を見苦しくないように整えてから去るべきだというたとえ。退き際がいさぎよく、さわやかであることも表す。


【英語】
・Leave everything neat and tidy when you go.(去るときはすべてをきちんと整えておく)
・It is an ill bird that fouls its own nest.(自分の身近な場所を汚す鳥はよくない)
【類義語】
・飛ぶ鳥跡を濁さず(とぶとりあとをにごさず)
【対義語】
・後足で砂をかける(あとあしですなをかける)
・後は野となれ山となれ(あとはのとなれやまとなれ)
「立つ鳥跡を濁さず」の語源・由来
このことわざのもとには、鳥が水辺から飛び立ったあとも、水が濁らず澄んだままであるという情景があります。「濁さず」という言い方から、ここで思い浮かべられている鳥は、水辺にいる鳥と受け取るのが自然です。安土桃山時代には「鷺(さぎ)は立ちての跡濁さぬ」という形もあり、水鳥の中でも鷺を思わせる古い言い方が伝わっています。
「立つ」は、ここでは「立っている」という意味ではなく、その場を離れる、飛び立つという意味に近い言い方です。つまり、鳥がいた場所から去るとき、その跡を汚さないという自然の姿を、人間のふるまいに重ねた表現です。単に掃除をするという意味だけでなく、去ったあとに迷惑やわだかまりを残さないという教えを含んでいます。
古い記録としては、『日葡辞書(にっぽじしょ)』(1603年本編、1604年補遺、日本イエズス会刊行)に、このことわざがすでに見えます。『日葡辞書』は、日本語をポルトガル語で説明した辞書で、当時の話し言葉や文書の言葉も多く収めています。そこに採られていることから、江戸時代の初めには、この言い方がかなり定着していたと考えられます。
さらに、江戸時代前期の評判記『吉原人たばね』(1680年ごろ)には、「たつ鳥あとをにこさす、まつだい、よきなをのこし給はんな」という用例が出てきます。これは、ただ場所をきれいにして去るというだけでなく、後の世までよい名を残してほしいという文脈で使われています。水辺の情景から生まれた言葉が、人の評判や生き方を表す言葉として広がっていたことが分かります。
近代以後にも、このことわざは去り際の心得として用いられました。たとえば、種田山頭火『行乞記』(1932年)では、自分が去るときの姿勢を述べる文脈で使われています。また、黒澤和子『回想 黒澤明』(2004年)では、借りた場所を掃除して元の状態に戻す態度を表す言葉として出てきます。
このように、「立つ鳥跡を濁さず」は、水鳥が水を濁さずに飛び立つ姿を出発点としながら、人が場所・役目・関係から離れるときの作法を表すことわざとして受け継がれてきました。現在では、引っ越しや転校、退職、役目の交代など、次に残る人のことを考えてきちんと締めくくる場面で使われます。
「立つ鳥跡を濁さず」の使い方




「立つ鳥跡を濁さず」の例文
- 引っ越しの日、父は立つ鳥跡を濁さずのつもりで、借りていた家の庭まできれいに掃いた。
- 委員会をやめる前に資料を整理したのは、立つ鳥跡を濁さずという考えからだ。
- 部長は退職前に仕事の引き継ぎを細かく残し、立つ鳥跡を濁さずの姿勢を示した。
- 合宿所を出る前に全員で部屋を掃除し、立つ鳥跡を濁さずを実行した。
- けんか別れにならないよう、最後にきちんと礼を言った彼女の態度は、立つ鳥跡を濁さずだった。
- 卒業する六年生は、教室の掲示物を外して机を整え、立つ鳥跡を濁さずで学校を去った。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・土井忠生・森田武・長南実編訳『邦訳 日葡辞書』岩波書店、1980年。
・『吉原人たばね』延宝8年ごろ刊。























