【慣用句】
犬も食わない
【読み方】
いぬもくわない
【意味】
ひどく嫌われたり、ばかばかしくて誰にもまともに相手にされなかったりすることのたとえ。


【英語】
・not worth one’s while(相手にするだけの価値がない)
【類義語】
・歯牙にも掛けない(しがにもかけない)
・鼻も引っ掛けない(はなもひっかけない)
【対義語】
・取り合う(とりあう)
・歯牙に掛ける(しがにかける)
「犬も食わない」の語源・由来
「犬も食わない」は、「犬も食わぬ」という古い形と同じ流れをくむ言い方です。もとは、犬はたいていのものに食いつくものだという昔の見方を前提にし、その犬でさえ口をつけないほど、いやがられるもの、相手にされないものをたとえた表現です。
この言い方の早い用例として、評判記『難波の貌は伊勢の白粉』(1683年ごろ・江戸時代前期)に、「犬もくはぬ」という形が出てきます。そこでは、ある浪人が世間から相手にされないことを表す文脈で用いられており、食べ物のまずさをいうだけでなく、人や物事がまったく顧みられないという意味にまで広がっていたことが分かります。
また、「犬も食わない」は、「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」という言い方によって、さらに広く知られるようになりました。夫婦のいさかいは一時的で、すぐに仲直りすることが多いため、他人が仲裁するのもばからしい、という意味で用いられます。
江戸時代後期の『諺苑(げんえん)』(1797年成立、太田全斎著)は、俗語や俗諺を集めた国語辞書で、この系統の言い方を伝える資料の一つです。そこに見える「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」は、犬でさえ見向きもしないほど、外から関わるのがばからしいという発想を、夫婦げんかの場面に当てはめたものです。
さらに、洒落本『狐竇這入(きつねのあなばいり)』(1802年・江戸時代後期、十返舎一九著・画)にも、「夫婦げんかは犬も食わぬ」と近い形の用例が出てきます。この作品は享和2年序の洒落本で、吉原を舞台にした話を収めており、夫婦や男女のいさかいを、周囲がまじめに取り合わないものとしてとらえる言い方が、当時の会話や俗文の中に入っていたことを示しています。
「犬も食わない」は、そこから独立して、夫婦げんかだけでなく、つまらない争い、ばかばかしい言い合い、だれも相手にしたがらない話などにも用いられるようになりました。現在の使い方でも、単に「まずい」「嫌い」という意味だけではなく、「まともに取り合うほどの価値がない」という意味合いをもつところに、この慣用句の特徴があります。
「犬も食わない」の使い方




「犬も食わない」の例文
- 昼食の席で二人が消しゴムの貸し借りをめぐって言い合っていたが、犬も食わない争いなので、周りは静かに見守った。
- 夫婦の小さな口げんかに友人が口を出そうとしたので、母は犬も食わない話に入らない方がよいと言った。
- 会議の終わりに、どちらの席が窓側だったかで言い争いが始まり、犬も食わない議論になった。
- 兄弟がテレビのリモコンを先に取ったかどうかでけんかし、父は犬も食わないけんかだと苦笑した。
- 近所のうわさ話は大げさで、だれも本気にしない犬も食わない話になっていた。
- せっかくの話し合いが、細かい言葉じりを責め合うだけの犬も食わない言い合いに変わった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・集英社辞典編集部編『ルーツでなるほど慣用句辞典』集英社、1991年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・十返舎一九『狐竇這入』1802年。























