【故事成語】
画餅に帰す
【読み方】
がべいにきす
【意味】
考えや計画が実現せず、役に立たないまま無駄に終わること。


【英語】
・fall through.(計画などが失敗に終わる)
【類義語】
・絵に描いた餅(えにかいたもち)
「画餅に帰す」の故事
「画餅に帰す」の「画餅」は、絵に描いた餅を表します。どれほど本物らしく描いても食べることはできないため、実際には役に立たないもののたとえとなりました。
もとになった言葉は、中国の歴史書『三国志(さんごくし)』(西晋、3世紀、陳寿撰)の「魏書(ぎしょ)・盧毓伝(ろいくでん)」に出てきます。『三国志』は、魏・蜀・呉の歴史を記した全六十五巻の書物です。
ここでいう「餅」は、日本のもち米をついて作る餅とは異なります。中国では、小麦粉を原料とする平たい食べ物などを「餅」と呼びました。
故事の舞台は、三国時代の魏です。魏の第二代皇帝である明帝(めいてい)曹叡(そうえい)は、政治家の盧毓に、人材を選ぶ大切な役目を任せていました。
当時は、実際の能力よりも世間の評判によって名を上げる者がいました。明帝はそのような風潮を嫌い、中書郎(ちゅうしょろう)という官職に就ける人物を選ぶ際、盧毓に、評判だけで人を採用してはならないと命じました。
その詔には、「選舉莫取有名、名如畫地作餅、不可啖也」とあります。評判とは、地面に描いて作った餅のようなものであり、食べることはできない、という意味です。
この段階の「画餅」は、まだ計画の失敗を直接表す言葉ではありません。見掛けの評判だけが立派でも、現実の働きによって確かめなければ役に立たないというたとえでした。
盧毓は、評判だけでは並外れた人物を見分けられないものの、教えを守り、善を慕う普通の人物を選ぶ手掛かりにはなると答えました。そして、言葉や評判だけに頼らず、任用した後の実績によって確かめるべきだと説きました。
明帝は盧毓の意見を受け入れ、役人の働きを調べて評価する制度を作るよう命じました。この応答からも、故事の要点が単に評判を否定することではなく、実際の行いと成果を重んじることにあったと分かります。
やがて「画餅」は、評判だけでなく、実用にならない考えや実現しない計画を広く表すようになりました。そこに、「結局そのようなものになる」という意味を表す「帰す」が結び付き、「画餅に帰す」という形が定着しました。
明治時代前期の『近世紀聞(きんせいきぶん)』(1875〜1881年、染崎延房・条野伝平著)には、「画餠(グヮベイ)に属(ゾク)し申すべく候」とあります。この時点では、「帰す」と同じような意味で、「属す」という動詞を用いた形も使われていました。
森鴎外の『羽鳥千尋』(1912年)には、「かねて種々計画したこともあったが、それは画餅に帰した」とあります。ここでは、考えていた計画が実現せず、無駄になったという、現在と同じ意味で使われています。
さらに、芥川龍之介の『妖婆(ようば)』(1919年)には、「すべての計画が画餅になる」という形が出てきます。「帰す」「属す」「なる」と動詞には違いがありますが、いずれも計画が実現せず、役に立たないものとなることを表します。
このように、「画餅に帰す」は、評判だけでは人の実力を測れないという魏の故事から生まれました。その後、見掛けや構想だけは立派でも、実行されず、何の成果も生まないことを戒める言葉へと意味を広げ、現在まで使われています。
「画餅に帰す」の使い方




「画餅に帰す」の例文
- 資金が集まらなければ、新しい図書館を建てる計画は画餅に帰す。
- 必要な許可を得られず、夏祭りの企画は画餅に帰すこととなった。
- 立派な目標を掲げても、具体的な手順がなければ画餅に帰す。
- 家族全員の予定が合わず、夏休みの旅行計画は画餅に帰す。
- 交渉がまとまらなければ、両社の共同事業は画餅に帰す。
- 住民の協力を欠けば、地域の防災計画は画餅に帰すおそれがある。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・陳寿『三国志』西晋、3世紀。
・染崎延房・条野伝平『近世紀聞』1875〜1881年。
・森鴎外『羽鳥千尋』1912年。























