【慣用句】
肝胆を砕く
【読み方】
かんたんをくだく
【意味】
懸命になって物事を行うこと。心を尽くして取り組むこと。


【英語】
・spare no effort.(努力を惜しまない)
【類義語】
・心を砕く(こころをくだく)
・心肝を砕く(しんかんをくだく)
・肺肝を砕く(はいかんをくだく)
【対義語】
・骨を惜しむ(ほねをおしむ)
・手を抜く(てをぬく)
「肝胆を砕く」の語源・由来
「肝胆」の「肝」は肝臓、「胆」は胆嚢(たんのう)を指します。体の大切な内臓をいう言葉であることから、そこから「心の中」「心の底」「誠の心」という意味へ広がりました。
このように、体の奥深い部分を心の奥底に重ねる考え方が、「肝胆を砕く」の土台になっています。表面だけの努力ではなく、内側から力を尽くすという強い意味を表すために、「肝胆」という言葉が用いられました。
「砕く」は、もとは固い物を細かくすることを意味する言葉です。古い表記では「摧く」とも書かれ、「摧」には「くだく」「くじく」という意味があります。
この「砕く」が心に関わる言い方として用いられると、心を細かく割るほど思いを尽くす、苦心する、心を悩ませるという意味になります。「心を砕く」も、気を配り、苦心し、真心を尽くすことを表します。
「肝胆」を「心の底」の意味で用いた古い例には、『本朝文粋(ほんちょうもんずい)』(1058年ごろ成立、平安時代後期、藤原明衡編)があります。この漢詩文集には「瀝二肝胆一」という形が見え、心の内を注ぎ出すような表現として使われています。
「肝胆を砕く」という形の古い用例は、『玉葉(ぎょくよう)』(平安時代末から鎌倉時代初め、九条兼実の日記)の文治二年、1186年七月十四日の記事に出てきます。そこには「摧二肝胆一、住二悪心一、偏忘二他事一、有二御念願一」とあり、ほかのことを忘れるほど念願に心を向ける文脈で使われています。
この用例では、現代の「砕く」ではなく「摧」の字が用いられています。形は古い漢文体ですが、心の奥底にあたる「肝胆」を「摧く」と表すことで、強く思いをこめて物事に向かう様子を示しています。
鎌倉時代前期の『高野本平家』にも、「山王大師に百日肝胆を摧て祈申ければ」という例が出てきます。ここでは、百日にわたって祈る場面で「肝胆を摧く」が使われ、強い願いをこめて祈り続ける姿を表しています。
同じころの文献には、「心肝を砕く」「肺肝を砕く」のように、心や内臓を表す言葉に「砕く」を結びつけた言い方も見られます。これらは、心を痛める、苦心する、心力を尽くすという意味で用いられ、「肝胆を砕く」と近い表現の流れにあります。
現在の「肝胆を砕く」は、宗教的な祈りだけでなく、仕事、研究、世話、再建、問題解決など、広い場面で使われます。大切なのは、ただ忙しいということではなく、目的のために心の底から力を尽くすという点です。
そのため、「肝胆を砕く」は、軽い努力や一時的ながんばりには向きません。大きな責任を負い、深く考え、誠意をもって取り組むときにふさわしい表現です。
「肝胆を砕く」の使い方




「肝胆を砕く」の例文
- 社長は倒産寸前の会社を立て直すために、肝胆を砕く日々を送った。
- 先生は転校生が教室になじめるよう、肝胆を砕く思いで声をかけ続けた。
- 実行委員は事故のない祭りにするため、肝胆を砕く準備を重ねた。
- 研究チームは新しい治療法の実用化に向けて、肝胆を砕く努力を続けた。
- 友人の悩みを受け止めようと、彼女は肝胆を砕くように言葉を選んだ。
- 校長は地域と学校の信頼を取り戻すため、肝胆を砕く姿勢を示した。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・日本漢字能力検定協会『漢字ペディア』。
・Merriam-Webster, “Spare no effort,” Merriam-Webster.com Dictionary.























