【故事成語】
槿花一日の栄
【読み方】
きんかいちじつのえい
【意味】
栄華や盛んな勢いが長続きせず、はかなく終わることのたとえ。つかの間の繁栄。


【英語】
・a flash in the pan.(長続きしない一時的な成功や人気)
【類義語】
・一炊の夢(いっすいのゆめ)
・朝顔の花一時(あさがおのはなひととき)
「槿花一日の栄」の故事
「槿花」は、ムクゲの花を指します。ムクゲの一つ一つの花は朝に開き、夕方にはしぼむため、古くから、命の短いものや、はかない栄華を表す花として用いられてきました。日本では、アサガオの花を指すものとして解釈されることもあります。
この故事成語のもとになったのは、中国・中唐の詩人、白居易が詠んだ「放言五首」の第五首です。白居易は772年に生まれ、846年に没した詩人で、日本では白楽天の名でも広く知られています。
白居易は、元和10年、すなわち815年に江州の司馬へ左遷されました。「放言五首」の序には、友人の元稹が江陵にいたときに作った五首の詩に感銘を受け、自分も任地の潯陽(じんよう)へ向かう舟の中で、時間を得て五首を作ったとあります。
第五首は、『白氏文集(はくしもんじゅう)』巻十五や『全唐詩』巻四百三十八に収められています。その中に、「松樹千年終是朽、槿花一日自為榮」とあります。千年生きる松の木も最後には朽ち、わずか一日しか咲かない槿花も、その一日のうちに自らの栄えを成し遂げる、という意味です。
この詩では、長命の松と短命の槿花を比べたあと、世に執着して死を恐れる必要もなく、反対に、自分の命を嫌って生を投げ出すべきでもないと続けています。もとの詩の「槿花一日自為榮」は、短い命のはかなさだけを嘆く言葉ではなく、たとえ一日であっても、その命なりの栄えがあることを表していました。
ところが、この一節が詩全体から離れて用いられるにつれ、「一日だけの栄え」という部分が強く意識されるようになりました。そこから、どれほど華やかに見える栄華も、槿花のように短い間に失われるという意味へ移っていきました。
日本で現在の形に近い古い用例は、『妻鏡(つまかがみ)』(13世紀末ごろ成立、鎌倉時代後期の仏教書)に出てきます。そこには、「松樹千年終に是朽ぬ。槿花一日の栄に誇る事なかれ」とあり、一時だけの繁栄を誇ってはならないという戒めとして使われています。
白居易の詩では、短い命にも固有の栄えがあることを認めていましたが、『妻鏡』では、短く終わる栄華を誇る愚かさに重点が移っています。この用い方が、現在の「栄華がはかないこと」「つかの間の盛り」という意味に直接つながっています。
後には、「槿花一晨の栄」「槿花一朝の栄」「槿花一朝の夢」などの形も使われました。「一晨」や「一朝」は、一日の朝ほどの短い時間を表し、「夢」を添えた形では、繁栄が夢のようにはかなく消えることをいっそう強く示しています。
このように、「槿花一日の栄」は、白居易が詠んだ一日限りの花の姿から生まれ、日本では、一時の栄華を戒める表現として受け取られました。華やかな成功や権勢も永遠には続かないという、世の移り変わりを表す故事成語です。
「槿花一日の栄」の使い方




「槿花一日の栄」の例文
- 都をにぎわせた新興商人の豪勢な暮らしも、政変とともに消え、槿花一日の栄に終わった。
- 流行に乗って急成長した会社は、主力商品の人気が去ると、槿花一日の栄のように急速に衰えた。
- 彼の人気は一時こそ国中を沸かせたが、槿花一日の栄で、数年後には忘れられていた。
- 連勝を重ねたチームの黄金期も、主力選手の引退によって槿花一日の栄となった。
- 権力だけを頼みに築いた地位は、槿花一日の栄にすぎず、政権交代とともに崩れた。
- 観光客であふれた町のにぎわいは、流行が過ぎると槿花一日の栄だったことが明らかになった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・岡村繁著『新釈漢文大系99 白氏文集 三』明治書院、1988年。
・白居易『白氏文集』唐代。
・『妻鏡』13世紀末ごろ成立。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』























