【ことわざ】
能ある鷹は爪を隠す
【読み方】
のうあるたかはつめをかくす
【意味】
本当に実力のある者は、その力をむやみに見せびらかさないというたとえ。すぐれた能力をもつ人ほど、ふだんは控えめにふるまうことを表す。


【英語】
・Still waters run deep.(静かな人ほど深い力や知識をもっている)
・hide one’s light under a bushel(自分のよい性質や能力を人に見せずにいる)
【類義語】
・上手の猫が爪を隠す(じょうずのねこがつめをかくす)
・大賢は愚なるが如し(たいけんはぐなるがごとし)
・良賈は深く蔵して虚しきが如し(りょうこはふかくぞうしてむなしきがごとし)
【対義語】
・浅瀬に仇波(あさせにあだなみ)
・空樽は音が高い(あきだるはおとがたかい)
「能ある鷹は爪を隠す」の語源・由来
「能ある鷹は爪を隠す」は、すぐれた力をもつ鷹が、むやみに鋭い爪を立てて相手をおどかさないという姿を、人間のふるまいに重ねたことわざです。ここでいう「爪を隠す」は、爪がまったく見えなくなるという意味ではなく、力を必要以上に見せつけないことを表します。そこから、本当に力のある人は、ふだんから自慢したり威張ったりせず、いざという時に実力を示す、という意味になりました。
このことわざの背景には、日本で古くから公家(くげ)や武家(ぶけ)の間で親しまれてきた鷹狩りがあります。鷹は狩りにすぐれた鳥であり、鋭い爪で獲物を捕らえる力をもっています。また、鷹は「鷹は飢えても穂を摘まず」とも言われるように、誇り高さや威厳をもつ鳥として受け止められてきました。そうした鷹の印象が、「力をもっていながら、軽々しく見せびらかさない」という人間の理想像と結びついたのです。
「爪を隠す」という言い方そのものは、さらに古い段階にも見られます。『花鳥余情(かちょうよせい)』(1472年・室町時代中期、一条兼良著)は、『源氏物語』の注釈書で、30巻から成る書物です。この書物に「つめかくすははぢたる心なり」という用例があり、「爪を隠す」という表現が、内にあるものを表に出さない動きとして使われていたことが分かります。
現在の形に近い「能ある鷹は爪を隠す」は、『北条氏直時代諺留(ほうじょううじなおじぶんことわざとめ)』(1599年ごろ)に出てきます。この書物は、ことわざを集めた古い資料で、題名の読みや写本の情報も伝わっています。ここに「本当に力のあるものは、みだりにそれをひけらかすようなことはしない」という意味のことわざとして記録されているため、室町時代末から安土桃山時代ごろには、現在に近い形で広まっていたといえます。
その後、このことわざは「能ある猫は爪を隠す」「上手の猫が爪を隠す」のような近い言い方とも結びつきながら、才能と慎みを表す表現として使われ続けました。猫も鷹も鋭い爪をもつ動物ですが、むやみに爪を立てないという点が、人の実力の隠し方を表すたとえになっています。とくに「鷹」は、狩りの力、気高さ、武家文化とのつながりを思わせるため、能力のある人のたとえとして強い印象を残しました。
近代文学にも、このことわざは自然に使われています。中里介山の『大菩薩峠』(1913〜1941年)には、柔術や武芸を心得ている人物について「能ある鷹は爪を隠す」と言う場面があります。ここでは、本人が自分の力を大げさに語らないため、周囲からはすぐに実力が分からないものの、実は多くの力を内にたたえている、という意味で用いられています。
このことわざは、ただ「目立たない人」をほめる言葉ではありません。大切なのは、実力があるにもかかわらず、それを軽々しく誇らないという点です。力がある人ほど、むやみに強さを見せつける必要がありません。だからこそ「能ある鷹は爪を隠す」は、控えめであることと、確かな実力をもつことの両方を表すことわざとして、今も広く使われています。
「能ある鷹は爪を隠す」の使い方




「能ある鷹は爪を隠す」の例文
- ふだんは目立たない彼が大会で優勝し、能ある鷹は爪を隠すとはこのことだと思った。
- 能ある鷹は爪を隠すというように、祖母は自分の料理の腕を少しも自慢しない。
- 新しい部長は静かな人だが、会議で的確な意見を出し、能ある鷹は爪を隠す人物だと分かった。
- 能ある鷹は爪を隠すと言うが、友人は英語が得意なことを最後まで話さなかった。
- 彼女は能ある鷹は爪を隠すタイプで、必要な時だけすばらしい演奏を聞かせてくれる。
- 能ある鷹は爪を隠すという言葉どおり、本当に実力のある人ほどむやみに自分を大きく見せない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・一条兼良『花鳥余情』1472年。
・『北条氏直時代諺留』1599年ごろ。
・中里介山『大菩薩峠』1913〜1941年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』。























