【ことわざ】
後悔先に立たず
【読み方】
こうかいさきにたたず
【意味】
してしまったことをあとで悔やんでも、取り返しがつかないこと。物事を行う前によく考えるべきだという戒め。


【英語】
・It is no use crying over spilt milk(こぼれた牛乳を嘆いても仕方がない)
・Repentance comes too late(後悔は遅れてやって来る)
・Too late for regrets(後悔するには遅すぎる)
【類義語】
・後の祭り(あとのまつり)
・覆水盆に返らず(ふくすいぼんにかえらず)
・臍を噛む(ほぞをかむ)
【対義語】
・転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)
・備えあれば憂いなし(そなえあればうれいなし)
「後悔先に立たず」の語源・由来
「後悔先に立たず」は、中国古典の人物や事件から生まれた故事成語ではなく、後悔という人の心の動きをもとにしたことわざです。「後悔」は、あとになって自分のしたことを悔やむことを表し、「先に立たず」は、物事の前に現れて役に立つことがない、という意味につながります。つまり、悔やむ気持ちはいつも行動のあとに来るため、失敗を防ぐ助けにはならない、という考え方がこのことわざの中心にあります。
この考え方に近い古い形として、「後の悔い先に立たず」があります。『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』(12世紀初め成立、平安時代後期の説話集、編者未詳)には、「然れば後の悔前に不立ずと云ふ譬にてぞ有ける」という用例が伝わります。これは、「あとになって悔やんでも、その悔いは前もって役に立たないというたとえである」という意味にほどくことができます。
『今昔物語集』は、インド・中国・日本の説話を集めた大きな説話集で、各話が「今は昔」で始まることに書名の由来があります。この古い用例では、現在の「後悔」という二字熟語の形ではなく、「後の悔い」という言い方で、あとから生じる悔いが前には立たない、という筋道を表しています。
その後、「後悔先に立たず」という形に近づいた用例として、『沙石集(しゃせきしゅう)』(1283年・鎌倉時代、無住一円著)が重要です。『沙石集』は十巻からなる仏教説話集で、霊験談(れいげんだん)や高僧伝(こうそうでん)のほか、文芸談や笑話も収めた作品です。そこに「後悔(コウクヮイ)さきにたたず、事を弁へず、実に愚也」という形が出てきます。これは、物事の道理を考えずに行ってしまい、あとで悔やんでも遅い、という文脈の言い方です。
この流れを見ると、まず「後の悔い」というやわらかな言い方があり、のちに「後悔」という漢語を用いた引き締まった形が定着していったと考えられます。ただし、特定の一つの物語がこのことわざを生んだというより、失敗のあとで悔やむ人間の経験を、短く力のある言葉にまとめた表現として広まったものです。
「先に立たず」の「立つ」は、ここでは実際に立ち上がるという意味ではなく、「先に出る」「役に立つ」「前もって働く」といった意味に関係します。後悔は、何かをしてしまったあとに起こる心の動きなので、行動の前に出て失敗を止めてくれることはありません。この表現は、悔やむことのむなしさだけでなく、事前に考えることの大切さを教えています。
近い表現の「後の祭り」は、時機を逸して、今さらどうにもならないことを表します。また、「覆水盆に返らず」は、一度こぼした水が盆に戻らないように、一度してしまったことは取り返しがつかないことを表します。「後悔先に立たず」は、それらと近い意味をもちながら、特に「あとで悔やむ心」に焦点を当てる点に特徴があります。
現在では、勉強、約束、準備、仕事、友人関係など、さまざまな場面で用いられます。ただ相手を責める言葉として使うよりも、「あとで悔やまないように、今よく考えよう」という前向きな戒めとして使うと、このことわざの意味がいっそうよく伝わります。
「後悔先に立たず」の使い方




「後悔先に立たず」の例文
- 試験の前日にあわてて勉強しても点数は伸びず、後悔先に立たずという結果になった。
- 大切な手紙を出し忘れて応募期限を過ぎてしまい、後悔先に立たずだと痛感した。
- 友人にきつい言葉を言ったあとで謝っても、傷つけた事実は消えず、後悔先に立たずだった。
- 旅行の予約内容をよく見なかったため宿泊日を間違え、後悔先に立たずという思いをした。
- 会社の重要な資料を確認せずに送信してしまい、後悔先に立たずの事態を招いた。
- 避難の準備をしていなかったため停電の夜に困り、後悔先に立たずという教訓を得た。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『今昔物語集』12世紀初め成立。
・無住一円『沙石集』1283年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』Cambridge University Press。























