【楠の木分限、梅の木分限】の意味と使い方や例文!語源由来は?

楠の木分限、梅の木分限

【ことわざ】
楠の木分限、梅の木分限

【読み方】
くすのきぶげん、うめのきぶげん

【意味】
長い年月をかけて着実に財産を築いた金持ちと、短期間に急に財産を得た成金とを、楠と梅にたとえて対照的にいう言葉。

ことわざ博士
楠の木分限、梅の木分限は、財産の額そのものよりも、富を築いた速さや土台の違いを表す言葉だよ。
助手ねこ
商売人や家の栄え方を、堅実に積み上げる型と急に伸びる型とに分けて評する場面で用いるニャン。

「楠の木分限、梅の木分限」の語源・由来

ことわざを深掘り

「分限(ぶげん)」は、もともと身分や能力の程度を表す言葉ですが、財産や財力、また、その財力をもつ金持ちを指す意味でも使われました。近世には、「分限者(ぶげんしゃ)」といえば、金持ちや財産家を表しました。

このことわざでは、楠と梅の育ち方を、二種類の財産家に重ねています。楠分限は、楠が時間をかけて根を張り、大木になるという見立てから、小さな利益を長年にわたって積み重ね、確実に財産を増やした金持ちを指します。一方、梅の木分限は、梅が早く育って実を結ぶものの、大木にはならないという見立てから、短期間のうちに急に財産を得た成り上がりの金持ちを指します。

財産を表す「楠木分限」より前には、同じ楠と梅の対照を学問に用いた例があります。『わらんべ草(わらんべぐさ)』(1660年・江戸時代前期、大蔵虎明著)には、器用な者が油断し、不器用な者が努力して追い越すことを説く中で、「梅の木、楠の木学文と云事思ふべし」とあります。進歩は早くても後に伸びにくい学び方と、初めは遅くても着実に大成する学び方とを、梅と楠にたとえています。

財産家を表す「楠木分限」の古い用例は、井原西鶴の『日本永代蔵(にっぽんえいたいぐら)』(1688年・江戸時代前期)にあります。この作品は、町人が知恵や才覚によって財産を築く姿を描いた浮世草子(うきよぞうし)です。

作中では、紀州の太地で捕鯨に携わる天狗源内が、従来は捨てていた鯨の骨から油を採る方法を工夫し、事業を大きくしていきます。多くの漁師と船を抱えるほど栄え、金銀を使っても財産が減らない状態になったところを、「根へ入ての内証吉、是を楠木分限といへり」と表しています。財産の内実が、地中深く張った根のように揺るがないという意味です。

井原西鶴の遺稿を北条団水がまとめた『西鶴織留(さいかくおりどめ)』(1694年・江戸時代前期)にも、「楠の木分限」が出てきます。十四、五年の間に山崎の長者となった人物について、「ちくちく延びて朽つる事なく」と述べ、少しずつ伸びながら衰えない財産の築き方を、楠に重ねています。

やがて、「楠木分限」と、その反対に当たる「梅の木分限」とが一組になり、財産の築き方を比べる言葉として定着しました。明治43年に初版が刊行された『諺語大辞典(げんごだいじてん)』にも、「楠木分限梅木分限」の形で収められ、楠分限を少しずつ財産を増やす根堅い富者、梅の木分限を一時に身代を伸ばす者としています。

ただし、「梅の木分限」は、急に得た財産が必ず失われるという意味ではありません。長年の積み重ねによる堅実な富と、短期間で築かれた富との違いを示し、前者をより安定したものとして評価するニュアンスをもつ言葉です。なお、現実のクスノキは生長の早い樹木ともいわれるため、この対照は植物学上の厳密な法則ではなく、巨木となる楠と、早く花や実をつける梅の姿から生まれた、昔ながらのたとえです。

「楠の木分限、梅の木分限」の使い方

健太
商店街の和菓子屋さんは、三十年かけて少しずつ店を広げたんだって。
ともこ
駅前の新しいパン屋さんは、開店して半年で三つも支店を出したそうだよ!
健太
二つの店は、まるで楠の木分限、梅の木分限だね。栄え方がずいぶん違うなあ。
ともこ
本当だね。早く大きくなる店も、少しずつ育つ店も、この先が大切なんだね。

「楠の木分限、梅の木分限」の例文

例文
  • 祖父は小さな商いから着実に財産を築いたが、隣家の主人は相場で急に富を得ており、楠の木分限、梅の木分限と評された。
  • 同じ年に店を開いた二人でも、一方は地道に蓄え、他方は流行に乗って急成長したため、楠の木分限、梅の木分限の違いが表れた。
  • 楠の木分限、梅の木分限というように、財産家にも長年かけて富んだ者と、短期間で成功した者とがいる。
  • 老舗の主人と新興企業の社長を比べて、町の人々は楠の木分限、梅の木分限だとうわさした。
  • 父は楠の木分限、梅の木分限の話を引き、急な利益に浮かれず、商売の土台を固めるよう息子を諭した。
  • 二つの家の栄え方は楠の木分限、梅の木分限そのもので、財産を築くまでの年月が大きく異なっていた。

主な参考文献

・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・藤井乙男編『諺語大辞典』有朋堂書店、1910年。
・大蔵虎明『わらんべ草』1660年。
・井原西鶴『日本永代蔵』1688年。
・井原西鶴作、北条団水編『西鶴織留』1694年。




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