【ことわざ】
蛇の口裂け
【読み方】
くちなわのくちさけ
【意味】
欲が深すぎるために、かえって災いを招き、自分の身を滅ぼすことのたとえ。


【類義語】
・欲の熊鷹股裂ける(よくのくまたかまたさける)
「蛇の口裂け」の語源・由来
「蛇」は、ここでは「くちなわ」と読みます。「くちなわ」は蛇の古い呼び名で、「口裂け」は、大きすぎるものをのみ込もうとして口が裂けるという結末を表します。ことわざ全体では、自分の限度を越えてまで欲しがると、かえって身を損なうという戒めになります。
『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(934年ごろ成立、平安時代中期、源順編)には、蛇の和名として「へみ」とともに「くちなは」が挙げられています。「くちなわ」が、平安時代から使われてきた古い呼び名であることが分かります。
『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』(1221年の承久の乱後まもなく成立、鎌倉時代前期)には、「まだらなる蛇(くちなは)」とあります。また、『徒然草(つれづれぐさ)』(1331年ごろ成立、鎌倉時代末期、吉田兼好著)第二百七段には、「大きなるくちなは、数もしらずこりあつまりたる塚ありけり」と記されています。
前者はまだら模様の蛇を、後者は大きな蛇が数え切れないほど集まった塚を述べたものです。このような用例から、「くちなわ」が物語や随筆の中で、普通に蛇を指す言葉として使われていたことが分かります。
「くちなわ」は、蛇を直接名指しすることを避け、細長い姿が縄に似ていることから生まれた呼び名とされています。西日本では日常的な呼び名としても用いられ、この古い言葉が「蛇の口裂け」の読み方に残っています。
このことわざの由来として伝わるのは、蛇が自分の口より大きなものをのみ込もうとし、ついには口を裂いてしまうという姿です。ことわざの中では、この姿を、手に入る限度を考えず、際限なく利益や品物を取り込もうとする人の欲深さに重ねています。
「蛇が欲張った結果、口を裂く」という一連の出来事は、「蛇の口裂け」という短い形にまとめられています。そのため、このことわざは、単に欲があることではなく、欲を抑えられず、最後には自分の身や、それまで得ていたものまで損なうことを表します。
古い文献に現れるのは、まず、蛇の呼び名としての「くちなわ」です。一方、「蛇の口裂け」というまとまった形の成立時期や最初の使用者は伝わっていないため、古い動物名の段階と、欲を戒めることわざとして定着した段階とは、分けて捉える必要があります。
現在は、物を欲しがる場面だけでなく、利益・権力・地位などを求めすぎたために、それまで築いたものまで失う場合にも用いられます。欲そのものを否定するのではなく、限度を忘れた欲が自分を傷つけることを戒めているのです。
「蛇の口裂け」の使い方




「蛇の口裂け」の例文
- 順調だった店を一度に何店舗も増やし、借金を抱えた経営者は蛇の口裂けとなった。
- もっと利益を得ようと危険な投資へ全財産を注ぎ込むのは、蛇の口裂けを招く行いだ。
- 景品を独り占めしようとして反則を重ね、参加資格まで失った彼は蛇の口裂けそのものだ。
- すでに広い領地を持ちながら隣国まで奪おうとして敗れた王は、蛇の口裂けのたとえに当てはまる。
- 一枚の貴重なカードで満足せず、相手のカードを全部求めて交換を断られたのは蛇の口裂けだった。
- 目先の利益を増やすために品質を落とし、長年の信用を失った会社は蛇の口裂けに陥った。
主な参考文献
・学研辞典編集部編『用例でわかる故事ことわざ辞典』学習研究社、2005年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・源順『和名類聚抄』934年ごろ成立。
・『宇治拾遺物語』13世紀前半成立。
・吉田兼好『徒然草』1331年ごろ成立。




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