【故事成語】
群蟻腥羶に付く
【読み方】
ぐんぎせいせんにつく
【意味】
利益のあるところへ、多くの人が群がり集まることを卑しんでいう言葉。


【類義語】
・蟻の甘きにつく如し(ありのあまきにつくごとし)
「群蟻腥羶に付く」の故事
「群蟻腥羶に付く」は、中国の古い思想書『荘子(そうじ)』(戦国時代中期ごろ成立)の「徐無鬼(じょむき)」に出てくる、羊の肉と蟻を用いたたとえに基づく故事成語です。『荘子』は、荘周とその後の人々によって形作られた書物で、「徐無鬼」は現在の本文では雑篇に収められています。
原文には、「羊肉不慕蟻、蟻慕羊肉、羊肉羶也」とあります。羊の肉が蟻を求めるのではなく、蟻のほうが羊の肉を求めて集まるのは、羊の肉に強いにおいがあるからだ、という意味です。
このたとえは、古代中国の聖王とされる舜(しゅん)の話へと続きます。舜には人々を引きつける徳があったため、民はその人柄を慕って集まりました。舜が住む場所を三度移すと、その移った先には人が集まって町ができ、鄧(とう)の地では十万戸もの家々が集まったと記されています。
『荘子』では、舜の行いを「羶行(せんこう)」と表しています。これは、羊の肉のにおいに蟻が引き寄せられるように、人々を引きつける行いをたとえた言い方です。舜自身が人々を呼び集めたのではなく、その徳を慕った人々が自然に集まってきたことを示しています。
したがって、原典のたとえは、初めから金銭や利益に群がる人だけを表したものではありません。人を引きつける性質をもつ者のもとへ大勢の人が集まるという関係を、羊の肉と蟻になぞらえていました。その一方で、舜は年を取っても人々から離れて休むことができなかったと続くため、人が集まりすぎることによって自由を失う一面も描かれています。
同じたとえは、『淮南子(えなんじ)』(前漢、紀元前139年、劉安編)の「説林訓(せつりんくん)」にも、「羊肉不慕蟻、蟻慕於羊肉、羊肉膻也」と記されています。『荘子』に出てくる羊肉と蟻の関係が、後の中国でも、人が何かに引き寄せられる様子を表す比喩として受け継がれていたことが分かります。
後代になると、このたとえは「群蟻附羶(ぐんぎふせん)」という四字の形にまとめられました。明代の児童向けの書物『幼学瓊林(ようがくけいりん)』には、「鄙衆趨利、曰群蟻附羶」とあります。これは、利益へ走る人々の卑しい態度を「群蟻附羶」と呼ぶという意味であり、ここでは現在と同じく、利益を求めて群がることへの批判が明確になっています。
日本語では、「群蟻附羶」「群蟻付羶」のほか、「群蟻腥羶に付く」という形も用いられています。「群蟻」は群がる多くの蟻を指し、「腥羶」はなまぐさいことや、そのようなものを意味します。また、「羶」は、もともと羊のにおいを表す字です。
このように、もとの『荘子』では、舜の徳に民が引きつけられる様子を表したたとえでした。それが後代には、においの強い羊肉へ蟻が群がる姿そのものが強調され、利益や権力を目当てに大勢の人が押し寄せることを、軽蔑を込めて表す故事成語として定着しました。
「群蟻腥羶に付く」の使い方




「群蟻腥羶に付く」の例文
- 高額な賞金が発表されると、群蟻腥羶に付くように応募者が押し寄せた。
- 権力者の地位が高まるにつれ、群蟻腥羶に付くとばかりに多くの人が近づいてきた。
- 無料の商品を配るという知らせに、群蟻腥羶に付くような人だかりができた。
- 利益が見込める事業には、群蟻腥羶に付くように多くの会社が参入した。
- 彼の成功を知った途端、群蟻腥羶に付くように疎遠だった知人まで集まってきた。
- 群蟻腥羶に付くような態度を嫌い、彼女は得にならない仕事にも誠実に取り組んだ。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・『荘子』「徐無鬼」戦国時代。
・劉安編『淮南子』前漢、紀元前139年。
・程登吉『幼学瓊林』明代。




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