【君子は屋漏に恥じず】の意味と使い方や例文!故事は?(類義語・対義語・英語)

君子は屋漏に恥じず

【故事成語】
君子は屋漏に恥じず

【読み方】
くんしはおくろうにはじず

【意味】
人格の立派な人は、だれも見ていない所でも、良心に恥じるような行いをしないこと。

ことわざ博士
君子とは、学識と人格を備えた立派な人を指し、ここでは人目の有無に左右されない高潔さを表すんだよ。
助手ねこ
だれにも見られていない場面で、自分の良心に照らして行動すべきことを説くときに用いるニャン。

【英語】
・have a clear conscience even when no one is watching.(だれも見ていなくても良心に恥じるところがない)

【類義語】
・君子は其の独りを慎む(くんしはそのひとりをつつしむ)

【対義語】
・表裏がある(ひょうりがある)

「君子は屋漏に恥じず」の故事

故事成語を深掘り

この言葉のもとは、周代の詩を収めた中国最古の詩集『詩経(しきょう)』の「大雅(たいが)・抑(よく)」にあります。「抑」は、言葉や振る舞いを慎み、徳を失わないよう自らを戒める内容をもつ長い詩です。

その中に、「相在爾室、尚不愧于屋漏」とあります。自分の部屋にいる姿をよく見つめ、屋漏に対しても恥じるところがないようにせよ、という意味です。続いて、だれにも見られていないなどと思ってはならないと戒めています。

ここでいう「屋漏」は、屋根から雨が漏れることではありません。中国最古の字書とされる『爾雅(じが)』には、部屋の西北の隅を「屋漏」と呼ぶとあります。そこは部屋の奥にある、暗く目立たない場所で、古い解釈では、祭りの終わりに供え物を置く場所や、土地の神を祭る場所とも結び付けられています。

「抑」の詩はさらに、神がいつ、どのように訪れるかは人には計り知れないのだから、決して気を緩めてはならないと説きます。もともとは、たとえ人の目が届かなくても、神の前では行いを隠せないという考えを含んでいました。そこから、他人に知られるかどうかにかかわらず、自分の心に恥じない行動を取るという教えへとつながりました。

『毛詩(もうし)』の各篇に付けられた小序は、「抑」を、衛の武公が周の厲王を戒めるとともに、自分自身を戒めるために作った詩と伝えています。一方、宋代の朱熹は、年代や詩の内容から、厲王を批判したという解釈には無理があり、武公が自らを戒めた詩として読むべきだと論じました。このように、作者や相手については解釈が分かれますが、自分の言動を厳しく慎む詩であることは共通しています。

後に、儒家の古典『礼記(らいき)』の一篇である『中庸(ちゅうよう)』が、この『詩経』の句を引用しました。そして、「故君子不動而敬、不言而信」と続け、立派な人は行動を起こす前から敬意を集め、言葉を発する前から信頼されると説いています。人に見られない所でも自分を正しく保つからこそ、普段の姿にも自然と徳が表れるという教えです。

『詩経』の該当箇所には「屋漏に愧じず」とあり、「愧」は、心にやましさを覚えて恥じることを表します。日本語では、「愧じず」のほか、意味の分かりやすい「恥じず」という表記も使われています。「君子は屋漏に恥じず」という形は、『詩経』の句と、『中庸』が示した「君子」の教えとを一つに結び付けた言い方とみることができます。

日本では、明治8年に福沢諭吉が著した『文明論之概略』に、「一人の心の内に慊くして屋漏に愧ざるものなり」という用例があります。さらに、福沢諭吉著『日本男子論』(明治21年)でも、「屋漏に恥じざる」という形が使われ、人前でも家庭の中でも徳を失わない人物の大切さが説かれました。こうして、人が見ていない時にこそ本当の人格が表れるという教えとして、日本語にも定着していきました。

「君子は屋漏に恥じず」は、他人の評価を得るために善い行いをするのではなく、自分の良心に従って正しく生きることを教えています。人目のない「屋漏」での振る舞いに、その人の本当の誠実さが表れるという意味です。

「君子は屋漏に恥じず」の使い方

健太
ともこちゃん、誰も見ていないから、当番の掃除は適当でいいよね。
ともこ
だめだよ、君子は屋漏に恥じずって言うでしょ。
健太
人が見ていないところでも、ちゃんとしないと恥ずかしいってことか…。
ともこ
そうだよ、先生が見ていなくても、しっかり掃除を終わらせようね。

「君子は屋漏に恥じず」の例文

例文
  • だれもいない教室で落とし物を届けた彼の行動は、君子は屋漏に恥じずという言葉にふさわしい。
  • 父は、君子は屋漏に恥じずを胸に、見えない所でも仕事の手を抜かなかった。
  • 友人は君子は屋漏に恥じずの教えどおり、先生がいなくても係の仕事を続けた。
  • 祭りの会計を任された彼女は、君子は屋漏に恥じずを忘れず、一円まで正確に記録した。
  • 会社は君子は屋漏に恥じずの姿勢を掲げ、監督の届かない工程でも安全基準を守った。
  • 社会の信頼を得るには、君子は屋漏に恥じずの心で公私の行動を正す必要がある。

主な参考文献

・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・『詩経』「大雅・抑」。
・『毛詩』「抑」小序。
・『爾雅』「釈宮」。
・『礼記』「中庸」。
・福沢諭吉『文明論之概略』1875年。
・福沢諭吉『日本男子論』1888年。




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