ことわざとは人々の知恵を、だれもが知っているたとえで表したものです。
昔から多くの人によって伝えられてきたものですから、ことわざを使って表現すると人の共感を得やすくなります。
こちらでは、ことわざを学び始める方にぜひ知っていただきたい厳選の「ことわざ100選」を、意味と共にご紹介します。
「ことわざ100選」は、ことわざ研究者・北村孝一先生のご協力により、収録項目を選定いただきました。
ことわざ研究者(ことわざ学会代表理事)。エッセイスト。学習院大学非常勤講師として「ことわざの世界」を講義した(2005年から断続的に2017年3月まで)。用例や社会的背景を重視し、日本のことわざを実証的に研究する。多くのことわざ資料集を監修し、『故事俗信ことわざ大辞典』第2版(小学館、2012)を編纂・監修した。後者を精選しエッセイを加え、読みやすくした『ことわざを知る辞典』(小学館、2018)も編んでいる。
選定の基本方針は、次の3つです。
1.多くの人によく知られているもの
2.日常生活で使われるもの
3.ことわざのレトリックになじみ、センスを磨けるもの
有名な慣用句は、【慣用句100選】有名な慣用句意味付きをご覧ください。
小学校で習うことわざは、【小学生用】小学校で習うことわざ312選をご覧ください。
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目次
「あ行」のことわざ意味付き
後の祭り(あとのまつり)
意味:時期遅れのことや手遅れのこと。もう祭りがすんでしまった日、あるいは祭りの終わったあとの山車(だし)や祭事用具という意から。
[使用例]
尊といかも知れないが、どうも饂飩屋は性に合わない。――しかし、とうとう饂飩を食わせられた今となって見ると、いくら饂飩屋の亭主を恨んでも後の祭りだから、まあ、我慢して、ここから曲がってやろう[夏目漱石*二百十日]
雨降って地固まる(あめふってじかたまる)
意味:いさかいやもめごとの後、よい結果や安定した状態になること。雨が降ったあとは、ゆるんでいた土地が固く締まる意から。
[使用例]
私たち二人はかように清算したことによって気持も晴れ、多くの教訓を得て、もはや数千円の損失などは問題ではなく、これで我が中村屋も雨降って地固まる、いよいよここに基礎が定まりました。[相馬愛蔵、相馬黒光*一商人として]
案ずるより産むが易い(あんずるよりうむがやすい)
意味:物事は実際にやってみると、心配していたよりはたやすく実行できるものだ、ということ。出産前には、あれこれ心配するものだが、産んでみると、案外楽なことから。
[使用例]
マア坊は振向き、僕を見つけて笑った。「土産をくれないの?」と言ってみた。<略>「あとでね、か。案ずるより生むが易し、だ。」そんな事を心の中で呟き、僕は、どさんとベッドに寝ころがった。[太宰治*パンドラの匣]
石の上にも三年(いしのうえにもさんねん)
意味:辛くても我慢して続ければ、いつかは報われるということ。忍耐の大切なことのたとえ。冷たい石の上にも三年間すわり続ければ、自然に暖かくなるという意から。
[使用例]
今年も駄目だ。<略>これを限り、米はやめよう、と三郎は手の中の空の穂を捨てて言った。やめますか。七回目だからな。最初は明治二十一年だった。石の上にも三年という。七たび試みればもういいだろう。[池澤夏樹*静かな大地]
急がば回れ(いそがばまわれ)
意味:急ぐときほど着実な手段をとったほうが得策であるというたとえ。危険な近道を通るよりも、遠回りでも安全な道を通るほうが、結局は早く目的地に着くことから。
一富士二鷹三茄子(いちふじにたかさんなすび)
意味:夢、特に初夢に見ると縁起がよいとされるものを並べたことば。
一寸の虫にも五分の魂(いっすんのむしにもごぶのたましい)
意味:小さい者や弱い者にも、それ相応の意地や根性があるから、侮ってはいけないということ。
[使用例]
名ばかりの亭主で、むなしく、日々が過ぎた。一寸の虫にも五分の魂やないか、いっそ冷淡に構えて焦らしてやる方が良いやろと、ことを察した木下が忠告してくれたが、そこまでの意気も思索も浮ばなかった。[織田作之助*放浪]
犬も歩けば棒に当たる(いぬもあるけばぼうにあたる)
意味:でしゃばると思わぬ災難にあうという戒め。犬もうろつき歩くから棒で打たれるという意から。また、動き回っているうちに思いがけない幸運に出会うことのたとえにも使われる。
[使用例]
俺はただ一つ処にじっとしていないために、犬も歩けば棒に当るというくらいな気持で、ぶらりぶらり歩いたのだった。[豊島与志雄*神棚]
命あっての物種(いのちあってのものだね)
意味:何事も命があってこそ初めてできる。だから、命にかかわる危険なことは避けよという戒め。
井の中の蛙(いのなかのかわず)
意味:知識や見聞の狭いことのたとえ。また、自分の狭い知識や見解にとらわれて、他に広い世界があることを知らないたとえ。小さな井戸の中にすむ蛙は、大きな海のあることを知らないという意から。世間知らず、一人よがりを戒めるときに用いられることが多い。
[使用例]
この浅虫の海は清冽で悪くは無いが、しかし、旅館は、必ずしもよいとは言へない。寒々した東北の漁村の趣は、それは当然の事で、決してとがむべきではないが、それでゐて、井の中の蛙が大海を知らないみたいな小さい妙な高慢を感じて閉口したのは私だけであらうか。[太宰治*津軽]
魚心あれば水心(うおごころあればみずごころ)
意味:相手が好意を示せば、こちらも好意をもって対応しようということ。魚が水に好意を持てば、水のほうでもその魚に好意を持つものだという意から。
[使用例]
あの山の端にかかっているあなたの国の月光が、なんと、私共の地上では、娘と男のはるかな想いを結びあわせる糸ともなれば、恋の涙を真珠にかえる役目もします。魚心あれば水心とは申しませぬ。五日の後に、この笛は、きっとおてもとに返しましょう。[坂口安吾*紫大納言]
馬の耳に念仏(うまのみみにねんぶつ)
意味:意見や忠告をしても、少しも効果がないことのたとえ。馬に念仏などを聞かせても、少しもありがたみを理解しないことから。
[使用例]
そうして、帰ってくるかと思うと、私の言うことなんか馬の耳に念仏で、そうやって大の字なりの高鼾だ……よし! 今日は一つ、泰軒先生に申しあげて、じっくり意見をしてもらいましょう[林不忘*丹下左膳]
噂をすれば影がさす(うわさをすればかげがさす)
意味:人のうわさをしていると、その人がやって来るものだ。
海老で鯛を釣る(えびでたいをつる)
意味:わずかな労力や元手で、大きな利益や収穫を得ることのたとえ。小海老の餌で鯛を釣り上げることから。
[使用例]
無論のことにそれと言うのは、囮の京弥をなるべく人の目に立たせるためで、人が京弥のすばらしい女装姿に見惚れて通ったならば、いつかそのあでやか振りが伝わって、百化け十吉の耳にも這入り、或は直接また目にもかけ、うまうま海老で鯛を釣る事が出来るだろうと思ったからでした。[佐々木味津三*旗本退屈男]
縁の下の力持ち(えんのしたのちからもち)
意味:人目につかない所で、他人のために苦労したり努力したりすること。また、そういう人のたとえ。表舞台には出ないが、重要な役割を果たしている人のこと。
負うた子に教えられて浅瀬を渡る(おうたこにおしえられてあさせをわたる)
意味:自分より劣った者や年下の者から物事を教わることのたとえ。
鬼に金棒(おににかなぼう)
意味:強い上に、さらに強さを加えることのたとえ。ただでさえ強い鬼に、鉄の棒を持たせる意から。
[使用例]
日本の料理界を見るとき庖丁を持たせば、達者に使える者は幾人もおる。煮炊きさせても、かれこれ役に立つ者もないではないが、ただ憾うらむらくは人間の出来ている者がない。<略>人間が出来ておって物が出来る。当たりまえながら、それで一人前なのだ。なんにも出来なくても、人間さえ出来ておれば、立派なものだ。いわんや人間が出来ておって物が出来るとしたら鬼に金棒だ。すなわち一人前の人間である。[北大路魯山人*世界の「料理王逝く」ということから]
帯に短し襷に長し(おびにみじかしたすきにながし)
意味:中途半端で、役に立たないことのたとえ。物の使い道や人間の能力を評価する場合などに用いる。
[使用例]
同年輩の多くのものはすでに子供まで産んでいるし、ただの一度も結婚ばなしのないなどというものは半人だっていなかった。バスの中から声をかけてくれたあのお梅さんだって、そのうしろから顔を見せたお民さんだって何回かの話はあったのだ。ただそれが例の「帯に短かし襷に長し」でまだ決まらないでいるだけなのだ。二人とも、ひょっとすると明日にでもどこかへきまるかも分らないし、いや、すでに内々はきまっているのかも知れないのである。[犬田卯*錦紗]
溺れる者は藁にもすがる(おぼれるものはわらにもすがる)
意味:困難に直面している者は、どんな物にでもすがりついて救いを求めようとすることのたとえ。溺れて死にかけている者は、藁のように頼りにならないものでも、掴んで助かろうとする意から。
[使用例]
国民の大半は戦争に飽くというより、戦争を嫌悪していた。六月、七月、八月――まことに今想い出してもぞっとする地獄の三月であった。私たちは、ひたすら外交手段による戦争終結を渇望していたのだ。しかし、その時期はいつだろうか。「昭和二十年八月二十日」という日を、まるで溺れるものが掴む藁のように、いや、刑務署にいる者が指折って数える出獄日のように、私は待っていた。[織田作之助*終戦前後]
思い立ったが吉日(おもいたったがきちじつ)
意味:何かをしようと思い立ったら、すぐに取りかかるのがよいという教え。思い立ったその日を吉日と考えよという意から。
親の心子知らず(おやのこころこしらず)
意味:子を思う親の気持ちがわからずに、子は勝手なことをするものだということ。また、親にならなければ、親の気持ちは推しはかれるものではないということ。
「か行」のことわざ意味付き
蛙の子は蛙(かえるのこはかえる)
意味:子供の才能や性質は親に似るものだということのたとえ。特に、凡人の子はやはり凡人である意に使う。おたまじゃくしが、成長すれば親と同じ蛙になることから。
[使用例]
人間の子供もそうぞうしいが、おまえも随分そうぞうしいな。あけても暮れても騒いでいる。蛙の子は蛙とはよく云ったものだ。おれ達を見習ってちっと黙っていろ。[岡本綺堂*蟹満寺縁起]
壁に耳あり(かべにみみあり)
意味:隠し事はとかく漏れやすいから、注意せよという戒め。こっそり話しているつもりでも、だれかが壁に耳をつけて聞いているかもしれないし、だれかが障子に穴をあけてのぞいているかもしれないという意から。
亀の甲より年の功(かめのこうよりとしのこう)
意味:年長者の人生経験や知恵は尊重しなければならないというたとえ。
[使用例]
亀の甲より年の功と云うことがあるだろう。こんな賤しい商売はしているが、まあ年長者の云う事だから、参考に聞くがいい。青年は情の時代だ。おれも覚がある。情の時代には失敗するもんだ。君もそうだろう。己もそうだ。誰でもそうにきまってる。[夏目漱石*坑夫]
かわいい子には旅をさせよ(かわいいこにはたびをさせよ)
意味:可愛い子供には苦しいことを体験させたほうがよいということ。
[使用例]
お富が言うことには、「そりゃ、まあ、かわいい子には旅をさせろということもありますがね、よくそれでもお民さんがあんなちいさなものを手離す気におなりなすった。なんですか、わたしはオヤゲナイ(いたいたしい)ような気がする。」[島崎藤村*夜明け前]
聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥(きくはいっときのはじきかぬはいっしょうのはじ)
意味:知らないことは積極的に質問したほうがよいという教え。知らないことを聞くのは、そのときは恥ずかしいが、聞かずに知らないままでいれば、一生恥ずかしい思いをして過ごすことになるということ。
腐っても鯛(くさってもたい)
意味:価値があるものは、どんな状態になっても本来の価値を失わないというたとえ。腐ったとしても鯛は魚の王者に変わりはない意から。
苦しいときの神頼み(くるしいときのかみだのみ)
意味:自分が困ったときにだけ、他人に頼ろうとすること。ふだんは神や仏をおがんだことのない者が、苦しいときにだけ、神仏に祈って助けを求めることから。
怪我の功名(けがのこうみょう)
意味:失敗・過失が意図しなかったよい結果をもたらすことのたとえ。あやまちが思いがけなく生んだ手柄という意から。
後悔先に立たず(こうかいさきにたたず)
意味:すんでしまったことをあとでいくら悔やんでも、取り返しがつかないということ。
[使用例]
繰り返してお礼はいったとはいえ、どうして名前と住所くらい聞かなかったのか、「後悔先に立たず」だ。なんでもこの中年夫婦は、スイスのアッペンツェルからやって来たという。[伊関武夫*ドイツ手作り紀行]
弘法にも筆の誤り(こうぼうにもふでのあやまり)
意味:名人や達人と呼ばれる人にも、失敗はあることのたとえ。弘法大師のような書の名人でも、書き損じをすることがあるという意から。
転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)
意味:失敗しないように、あらかじめ十分な準備をしておくことのたとえ。
「さ行」のことわざ意味付き
猿も木から落ちる(さるもきからおちる)
意味:その道に秀でて名人や達人と言われる人でも失敗することがあるというたとえ。木登りが上手な猿でも、木から落ちることもあるという意から。
三人寄れば文殊の知恵(さんにんよればもんじゅのちえ)
意味:凡人でも三人で集まって相談をすれば、文殊菩薩のようなよい知恵が出るものだということ。
地震雷火事親父(じしんかみなりかじおやじ)
意味:世の中で、とくに怖いと思われるものを順に並べたことば。
親しき仲にも礼儀あり(したしきなかにもれいぎあり)
意味:どんなに親しい間柄でも、礼儀は守らなければならないということ。親しみが過ぎて礼を失すると、不和となりやすいということ。
釈迦に説法(しゃかにせっぽう)
意味:釈迦に仏法を説くように、その道のことを熟知している人に、それを教えることの愚かさのたとえ。
朱に交われば赤くなる(しゅにまじわればあかくなる)
意味:人は、交際する仲間や環境によって、よくも悪くもなるというたとえ。
知らぬが仏(しらぬがほとけ)
意味:真実を知れば、心配したり、悲しんだり、腹を立てたりして穏やかではいられないが、知らずにいれば仏のような平静な心でいられるということ。また、当人だけが知らないで平気でいることをあざけったり冷やかしたりするときにもいう。
好きこそ物の上手なれ(すきこそもののじょうずなれ)
意味:好きなことは熱心に努力するので、上達も早いということ。
過ぎたるは及ばざるが如し(すぎたるはおよばざるがごとし)
意味:物事には程度というものがあり、度が過ぎることは足りないことと同じようによくないということ。
雀百まで踊り忘れず(すずめひゃくまでおどりわすれず)
意味:幼い頃に身につけた習慣は、年をとっても変わらないというたとえ。雀は踊るようにはねる習性を死ぬまで持ち続けることから。
[使用例]
これでいよいよ人気が立って毎晩の大入、あとの寄席もどこもかしこも大入続きで、どうやら小さんの名前を汚すことなく、おかげで今日まで参りました。でも雀百まで踊り忘れずとはこのことでしょう。そそっかし屋だけは一生直りそうもありませんでね[正岡容*初看板]
背に腹はかえられぬ(せにはらはかえられぬ)
意味:大事のためには、小事を犠牲にするのもやむを得ないというたとえ。背中を大事な内臓の入っている腹の代わりにはできない意から。
船頭多くして船山へ上る(せんどうおおくしてふねやまにのぼる)
意味:指図する者が多くて統一がとれず、物事がうまく運ばないことのたとえ。一艘(そう)の船に船頭が何人もいると、船が山に登って行くようなことになる意から。
[使用例]
十人二十人となっては船頭多くして船山に登る、という怖れになるが、五人ぐらいまでの合作は巧く行くと私は思う。日本にも、職業作家の合作は雑誌社で試みることがあったが、職業作家が自分の仕事片手間にやってはロクな智恵が集まるはずがなく、結局、一人の智恵にまかせることになるか、連鎖作品というような愚にもつかないものになってしまう。[坂口安吾*探偵小説とは]
善は急げ(ぜんはいそげ)
意味:よいと思ったことは、ためらわずすぐに実行に移せという教え。
千里の道も一歩から(せんりのみちもいっぽから)
意味:どんな大きな事業も、手近なところから始まり、着実に努力を重ねていけば必ず成功するという教え。
損して得取れ(そんしてとくとれ)
意味:一時的には損をしても、それが将来大きな利益になって返ってくるようにせよということ。
「た行」のことわざ意味付き
立つ鳥跡を濁さず(たつとりあとをにごさず)
意味:立ち去る者は、あとを見苦しくないようきれいにしておくべきであるという戒め。また、引き際が潔くきれいであることのたとえ。水鳥が飛び立ったあとの水辺は、濁ることなく澄んでいるという意から。
棚から牡丹餅(たなからぼたもち)
意味:思いがけない幸運が転がり込んでくること。労せずに幸運を得ることのたとえ。棚の下で寝ていたら、牡丹餅が落ちてきて開いた口にはいるという意から。
旅は道連れ世は情け(たびはみちづれよはなさけ)
意味:旅行するときは道連れのあるほうが楽しく頼もしい。同様に、世の中を渡るのもお互いに思いやりをもって仲良くすることが大切であるという教え。
塵も積もれば山となる(ちりもつもればやまとなる)
意味:わずかな物でも、積もり積もれば山のように大変な量になるということ。小事だからといっておろそかにしてはいけないという戒め。また、小さな努力も継続すれば大きな成果を得られるということ。
月とすっぽん(つきとすっぽん)
意味:形は似ているが、実質は比較にならないほどかけ離れていることのたとえ。多くの場合、優劣の差についていう。月とすっぽんは、どちらも丸いという点では共通しているが、まったく違ったものであることから。
[使用例]
「実力」の差は、はっきり目に見える程度には、逆転していました。私の感じでは、月とすっぽんほどの開きができていたと思います。[鷲田小彌太*時間をぜいたくに使う技術]
鉄は熱いうちに打て(てつはあついうちにうて)
意味:鉄は真っ赤に焼けている柔らかいうち、人間も純粋な精神を失わない若いうちに十分に鍛えることが大切であるということ。また、何事にも時機を逃してはならないという教え。
灯台下暗し(とうだいもとくらし)
意味:手近なことはかえってわからず、気がつかないものであるということ。燭台(しょくだい)は周囲を明るく照らすが、その真下は影となって暗いことから。
遠くの親類より近くの他人(とおくのしんるいよりちかくのたにん)
意味:離れた所に住んでいて付き合いのない親戚よりも、近くに住んでいて日常付き合っている他人のほうが頼りになるということ。
時は金なり(ときはかねなり)
意味:時間はかけがえのないものだから、無駄に過ごすなということ。時間は金銭と同様の価値があるという意。
取らぬ狸の皮算用(とらぬたぬきのかわざんよう)
意味:不確実な事柄に期待をかけ、それを当てにしていろいろと計画を立てることのたとえ。まだ狸を捕まえないうちから皮を売ってもうける計算をするという意から。
飛んで火に入る夏の虫(とんでひにいるなつのむし)
意味:進んで危険に身を投じ、災難を招くたとえ。灯火に集まって来る虫が焼け死ぬことから。
[使用例]
えーと。 ここはだれ? じゃなくて、ここはどこ? 「ひいっ!」 飛んで火に入る夏の虫とは、あたしのことだ。 地縛霊の渋谷スクランブル交差点、部室棟のなかじゃないのっ[森奈津子*いつでもこの世は大霊界!]
「な行」のことわざ意味付き
ない袖は振れない(ないそではふれない)
意味:実際にないものはどうしようもないということ。袖のない着物では、振りたくても振れないという意から。金銭的な援助をしたいができないといった場合に使う。
泣きっ面に蜂(なきっつらにはち)
意味:不幸や不運の上にさらに不幸なことが重なって起こることのたとえ。泣いてむくんでいる顔をさらに蜂が刺すということから。
[使用例]
十五両の代物を三日や四日で玉無しにしたばかりか、その大きい鯨の死骸を始末するにも又相当の金を使って、いわゆる泣きッ面に蜂で、由兵衛はさんざんの目に逢った。[岡本綺堂*虎]
なくて七癖(なくてななくせ)
意味:人はだれでも癖を持っているもので、癖がなさそうに見える人でも七つくらいは癖があるということ。
情けは人の為ならず(なさけはひとのためならず)
意味:善行は結局自分にも返ってくるものだから、人には親切にせよという教え。人に情けをかけると、その人のためになるだけでなく、いつかめぐりめぐって自分にもよい報いが返ってくるものだということ。
七転び八起き(ななころびやおき)
意味:何回失敗してもあきらめずにがんばることのたとえ。また、人生の浮き沈みが激しいことのたとえ。七回転んでも八回起きるということから。
七度たずねて人を疑え(ななたびたずねてひとをうたがえ)
意味:物がなくなったときは、自分で何度もよく探してみるべきで、探しもしないで軽率に人を疑ってはならないという戒め。
習うより慣れよ(ならうよりなれよ)
意味:人から学ぶよりも、実際に経験を積むほうが、しっかりと身に付くということ。
二度あることは三度ある(にどあることはさんどある)
意味:物事は繰り返し起こる傾向があるから注意せよという戒め。同じようなことが二度も起こるときは、さらにもう一度繰り返される可能性があるということ。
二兎を追う者は一兎をも得ず(にとをおうものはいっとをもえず)
意味:欲を出して同時に二つのことをやろうとしても、どちらも成功しないこと。二羽の兎を同時につかまえようとする者は、結局一羽もつかまえられないという意から。
濡れ手で粟(ぬれてであわ)
意味:何の苦労もしないで多くの利益を得ること。濡れた手で粟をつかむと、つかんだ量以上に粟粒がくっついてくることから。
猫に小判(ねこにこばん)
意味:貴重なものを持っていても、価値を知らないと何の役にも立たないことのたとえ。
[使用例]
先生や同行の方は考古学の専門家でしたので、お話を聞いても私には猫に小判で、ただ田圃や農家にばかり目を向けていました。[宇多喜代子*俳句研究]
寝耳に水(ねみみにみず)
意味:不意の知らせやできごとに驚くこと。
能ある鷹は爪を隠す(のうあるたかはつめをかくす)
意味:実力や才能のある者は、みだりにそれをひけらかすようなことはしないということ。
喉もと過ぎれば熱さを忘れる(のどもとすぎればあつさをわすれる)
意味:苦しいことも過ぎてしまえば簡単に忘れてしまうこと。また、苦しいときに受けた恩を、楽になったときに簡単に忘れること。
暖簾に腕押し(のれんにうでおし)
意味:相手の反応がまったくなくて、張り合いがないこと。のれんを押しても、なんの手応えもないことから。
[使用例]
伏見の駕籠かきは褌一筋で銭一貫質屋から借りられるくらい土地では勢力のある雲助だった。しかし、女中に用事(もの)一つ言いつけるにも、まずかんにんどっせと謝るように言ってからという登勢の腰の低さには、どんなあらくれも暖簾に腕押しであった。もっとも女中のなかにはそんな登勢の出来をほめながら、内心ひそかになめている者もあった。[織田作之助*螢]
「は行」のことわざ意味付き
花より団子(はなよりだんご)
意味:風流よりも実益、外観よりも内容を大切にすること。また、風流を解さないことのたとえにも用いる。見て美しい桜の花よりも、腹の足しになるおいしい団子のほうがよいという意から。
[使用例]
ほとんど誰でもが云われてみれば気がつくように、「花より団子」とは、一種の 自嘲的諷刺であり、少なくとも、花見というのに、花はそっちのけで、食い意地ばかり張っている人間を軽く嗤った、庶民の気取らない自己批判であります[岸田国士*力としての文化]
早起きは三文の得(はやおきはさんもんのとく)
意味:早起きは、何かと得をすることがあるということ。
[使用例]
「おや、これは早朝から何事でございましょうか」六平太は驚いた様子もない。この暁闇のうちに、すでにきちんと衣服を着ていた。「早起きは三文の得とやら申しましてな、商人に朝寝の者はおりませぬ」[早乙女貢*風塵]
人の噂も七十五日(ひとのうわさもしちじゅうごにち)
意味:世間で人があれこれうわさをするのも一時的なもので、しばらくすると自然に消えてしまうこと。
[使用例]
幸次郎はかさねて受け合って帰ったが、別に取り留めたことも探し出さないとみえて、それから又半月ほど過ぎるまで、この一件に就いてはなんの新らしい報告も持って来なかった。人の噂も七十五日で、潮干狩の噂はだんだんに消えて行った。半七もほかの仕事に忙がしく追われていたが、それでも彼の頭にはまだこの一件がこびり付いていて離れなかった。[岡本綺堂*半七捕物帳 海坊主]
人のふり見て我がふり直せ(ひとのふりみてわがふりなおせ)
意味:人の姿や行動を見てよいところを見習い、悪いところは自分の姿や行動を改めよということ。
火のない所に煙は立たない(ひのないところにけむりはたたない)
意味:根拠のないところにうわさは立たない。うわさが立つのは、何かしらそれなりの根拠・理由があるからだということ。
百聞は一見にしかず(ひゃくぶんはいっけんにしかず)
意味:百回繰り返して聞くよりも、たった一度でも自分の目で見るほうが確かであるということ。
[使用例]
先月某新聞に競輪のことを書いたが、そのときはまだ競輪を見たことがなかった。二十万円ちかい大穴だの、八百長紛擾、焼打、そうかと思うと女子競輪などゝ殺気の中に色気まであり、百聞は一見に如かずと食指をうごかしていたが、伊豆の辺地に住んで汽車旅行がキライときているから、生来の弥次馬根性にもかかわらず、出足がおくれたのである。[坂口安吾*安吾巷談 今日われ競輪す]
瓢箪から駒(ひょうたんからこま)
意味:思いも寄らないことや、あり得ないことが実現すること。また、冗談半分で言ったことが事実になってしまうこと。瓢箪の小さな口から馬が飛び出すという意から。
豚に真珠(ぶたにしんじゅ)
意味:どんなに価値のあるものでも、その価値がわからない者には、何の役にも立たず、無意味であることのたとえ。真珠を豚に与えても、豚はその価値がわからないので何の役にも立たないということから。
下手の横好き(へたのよこずき)
意味:下手なくせに、そのことが好きで熱心であること。多く、自分の趣味などを謙遜する場合に用いる。
仏の顔も三度(ほとけのかおもさんど)
意味:どんなに温厚な人でも、何度も無礼なことをされれば怒るというたとえ。仏といえども、一日に顔を三回もなでつけられれば腹を立てるという意から。
[使用例]
「もうあなた。みんなわたしが悪いんですから。」「あやまりさえすれば、それでいいと言うもんじゃない。仏の顔も三度という事があるぜ。何ぼ僕が甘いからッて、そうそう踏付けにばかりされたくないからな」[永井荷風*二人妻]
「ま行」のことわざ意味付き
負けるが勝ち(まけるがかち)
意味:時には相手に勝ちをゆずって、徹底的に勝負を争わないことが、かえって有利な結果となり、勝ちに結びつくということ。
馬子にも衣装(まごにもいしょう)
意味:身なりを整えれば、どんな人間でも立派に見えるというたとえ。
待てば海路の日和あり(まてばかいろのひよりあり)
意味:今は状況が思わしくなくても、あせらずに待っていれば、必ず幸運が訪れてくるということ。海が荒れていても、待っていれば必ず航海に適した日が来るということから。
[使用例]
ここらで、小生が食い意地をはり、ちょっかいを出せば、あらぬところで化の皮を剥がれる虞れがあろう。待てば海路の日和、そのうちには小生の方へも、お鉢が回ってくるに違いないと、下の狐はしばしがほど、辛抱に辛抱を重ねて、上の狐が青年共の隙を狙って、一切れの餅を股座へ抛り込むのを待っていた。[佐藤垢石*わが童心]
ミイラ取りがミイラになる(みいらとりがみいらになる)
意味:人を連れ戻しに出かけた者が、自分もそこにとどまって帰ってこないことのたとえ。また、他人を説得しようとして、逆に相手に説得されてしまうこと。ミイラを取りに行った人が、目的を果たさずに自分がミイラになってしまうことから。
身から出た錆(みからでたさび)
意味:自分自身の行いや過失のために、あとで災いを受けて苦しむこと。刀身から生じた錆が刀身を腐らせてしまう意から。
[使用例]
今までの長話も後悔されてきます。しかし、それもお喋りな生れつきの身から出た錆、私としては早く天王寺西門の出会いにまで漕ぎつけて話を終ってしまいたいのですが、子供のころの話から始めた以上乗りかかった船で、おもしろくもない話を当分続けねばなりますまい。[織田作之助*アド・バルーン]
三つ子の魂百まで(みつごのたましいひゃくまで)
意味:幼いときの性格は、一生変わらないということ。
[使用例]
孟子は子供の時分、母と一緒に住んでいた家が墓場に近かった。孟子は友達と遊戯をするのに、よくお葬式の真似をした。母は、その遊びを眺めながら、これは困ったことを覚えたものであると思った。明け暮れお葬式の真似をしていたのでは、三つ子の魂百までもの譬えで、将来に良い影響は及ぼさぬと考えた。[上村松園*孟母断機]
餅は餅屋(もちはもちや)
意味:何事も、その道の専門家に任せればまちがいがないということ。また、素人がいくら上手だといっても、専門家にはかなわないということ。餅は、なんといっても餅屋のついたのがいちばんうまいということから。
「や行」のことわざ意味付き
焼け石に水(やけいしにみず)
意味:援助や努力がわずかで、何の効果もないこと。焼けて熱くなった石に多少の水をかけても、石をさますことはできないことから。
安物買いの銭失い(やすものがいのぜにうしない)
意味:値段の安い物は、それなりに品質が悪くて使い物にならなかったり、すぐに壊れたりして、かえって損になるということ。
「ら行」のことわざ意味付き
楽あれば苦あり(らくあればくあり)
意味:楽をしたあとには必ず苦しいことがある。よいことばかりは続かないということ。また、怠けた生活をしていると、あとになって苦労するという戒め。
良薬は口に苦し(りょうやくはくちににがし)
意味:自分のためになる忠告は聞き入れにくいということ。よく効く薬は、苦くて飲みにくい意から。
論より証拠(ろんよりしょうこ)
意味:議論を重ねるよりも、証拠を出したほうが確かであるということ。
[使用例]
「なるほど、こりゃ困る。論より証拠音が出るんだから、小督の局も全くこれでしくじったんだからね。これがぬすみ食をするとか、贋札を造るとか云うなら、まだ始末がいいが、音曲は人に隠しちゃ出来ないものだからね」[夏目漱石*吾輩は猫である]
「わ行」のことわざ意味付き
我が身をつねって人の痛さを知れ(わがみをつねってひとのいたさをしれ)
意味:何事も自分の身に引き比べて、人を思いやれということ。自分の体をつねると人がつねられたときの痛みがわかるという意から。
禍を転じて福となす(わざわいをてんじてふくとなす)
意味:災難や失敗を上手に処置して、逆に成功のきっかけとしてしまうこと。
渡る世間に鬼はない(わたるせけんにおにはない)
意味:世の中には鬼のように無情な人ばかりでなく、親切で人情に厚い人もいるということ。
笑う門には福来たる(わらうかどにはふくきたる)
意味:いつも笑い声に満ちあふれた家には、自然に幸福がやって来るということ。また、苦しみや悲しみにあっても希望を失わずにいれば、幸せはやってくるということ。
[使用例]
「笑う門には福来たる」と昔から日本ではよく言われておりますが、これは笑いというものが人生に取つて何か徳になるもの、人間の幸福と関係があることを証明しています。<略>笑いは少くとも人生の窓であり、それは又希望と光明に向つて開かれた一つの扉とも言えるものです。[岸田國士*笑について]